そうだ、団子屋に行こう

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「みたらし食いてぇなー」  それはちょっとした思い付き。  先日SNSで見かけてフォローしていた、住宅街にある長めに歩けば行ける距離の団子屋。  店主の都合で休みも多く、更に営業日は土日だけ。  どうやら今日はやっているらしいという投稿を目にして、財布だけを手に取って出たのが間違いだった。  地図は頭に入っていたのでたどり着けた。  のだが、いつもと違う道を通ったせいか、自分の住む方面への帰りが分からない。  しかも個数限定だったので、着いたときにはもう売り切れていて。  欲しい団子は買えず、帰り道も分からない。  ポケットに手を突っ込んで、スマホも無いことに気づいた。 「……どうしよっかな」  近くにあった公園のベンチに腰かけて、自販機で買ったペットボトルを開けながら考える。  道を聞こうにも人通りは少なく、さっきまで開いていた団子屋は綺麗に締まっていた。  今朝スマホで返信し忘れた友人のメッセージを思いだす。  ――引っ越したから気が向いたら来いよ。  何度か確認していたから、むしろ場所が分かるかもしれない。  公園にある地図を確認して、見覚えのある形状を見つけて歩き出す。 「あいつんち行こう」  違ったらまあ、それこそ人に聞けばいいか。  楽観的過ぎる考えで目的地のアパートまでまでたどり着くと、見覚えのある名前の表札があった。  偶然同じ苗字だったらどうしよう。  ドキドキしながらインターフォンを押すと、まだ起きたばかりなのか眠そうな声がした。 「急に来るじゃないか」 「スマホとか色々忘れて」 「……なんで?」 「後で話すから入れて、トイレ行きたくて」 「あ、お前それで来ただろ」 「もうね、後ろからこんに」 「それ以上は良いから! そこのドア!」 「サンキュー!」  全てを察した友人が目を見開いて身体を壁に寄せ飛びのいてくれた。  靴を整える間もなく飛びこんで、スッキリしてくると友人がお茶の用意を済ませていた。  玄関を見ると転がした靴は整えてあった。 「ありがとなー」 「500円」 「金取るの!?」 「財布は持ってるんだろ」 「財布しかないんだよなぁ」 「まあ、それは冗談として。おやつでも食べながら聞くから」 「あっ!」  そこにあったのは、買いそびれたみたらし団子だった。  あまりにもオーバーな反応に、眼鏡の奥の瞳が怪訝そうに細められる。 「何? 嫌いだった?」 「いや、じゃなくて。今日勢いでこれ買いに来てスマホ忘れたんだ」 「お前んちはちょっと遠くない……?」 「だから財布だけ突っ込んで」 「なるほどなぁ。僕も今日SNS見て勢いで買いに行ったから分かる」 「お、仲間だ」 「ただちょっと、買いすぎたなと思ってたから来てくれて助かる」 「やったー、じゃあおこぼれにあずかって」 「……500円」 「やっぱ金取るの?」 「いや冗談だけど」  こんな偶然もあるもんか。  なんて思いながら久々の休日を友人とゆっくり過ごす。 「また来ていい?」 「団子代取るけど良い?」 「それも冗談?」 「いや、本気。お前意外と食い意地はってるので」 「本数分払うよ、あと飲み物」 「了解」  こうして重なった偶然から、これが習慣になるまで時間はかからなかった。  スマホを片手に、財布とちゃんと鞄を持って、ゆったりと家を出る。  もう店に居るらしい友人からの電話に出る。 『今日は何本にするー?』 「5本ー」 『おっけー』
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