サラがさらわれた?

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サラがさらわれた?

 ヘイズ王立魔法学園では2学期中間試験の2週間後に学園祭が開催される。  学園祭では料理の腕を競う屋台が並び、剣と魔法の技術を競う競技会、最後にダンスパーティーが催される。  いま、生徒会は学園祭の準備でとても忙しい。ちなみに私は生徒会長だ。  学年トップの成績の公爵令嬢だから、当然、そういう校内的な役職もこなさなければいけない。  生徒会のメンバーだけでは人手が足りない。私が学園祭のスケジュールを考えながら歩いていたら、ベンチにロベールが座っていた。 「ロベール、ごきげんよう。生徒会の仕事に興味はありませんか?」と私はロベールに聞いた。 「いえ、特には……」ロベールは歯切れ悪そうに答える。 「生徒会に興味がなくても構いません。それでは、学園祭の運営に興味がありませんか?」 「いえ、特には……」 「いいから、手伝いなさい!」 「え? 僕ですか? 高位貴族しか生徒会に入れませんよね?」 「いいえ。生徒会長がいいと言えば、黒い物も白くなるのです」 「はあ……」 「生徒会長が命じます。手伝いなさい!」 「マーガレット様、かしこまりました……」  ロベールは諦めたようだ。 ――どうしてこんな言い方しかできないのかしら?  私は人にお願い事をするのが苦手だ。  素直に『手伝って』と言えばいいだけなのに。  あぁ、やっぱり私はかわいくない…… ***  ロベールは学園祭の準備を手際よく手伝ってくれた。  飾り付けは完璧だったし、他の生徒会メンバーとの関係を考えて裏方に徹していた。  生徒会メンバーは全員が高位貴族の子女だ。プライドが高いし、誰かのために働こうという意識が全くない。自分さえよければいいのだ。  そんな面倒くさい生徒会メンバーの中でも、ロベールは全員を気持ち良く働かせていた。  私は手際の良さとコミュニケーション能力の高さに驚いたから、ロベールに聞いた。 「ロベール。あなたは本当に手際がいいわね。なぜそんなに慣れているの?」 「いつも孤児院の行事の手伝いをしていますから、こういうのは慣れています」 「そうなの」 「あっそうだ!」 「どうしたの?」 「今日、孤児院に行く予定があるのですが、一緒にいきませんか?」 ――えっ、これってデート?  どっちか分からないけど、私は「よくってよ」と即答した。 ***  その日の放課後、私とロベールは孤児院へ向かった。  ロベールは道すがら私に孤児院との関係を教えてくれた。 「僕はいつも孤児院で子供たちに勉強を教えたり、祭典の手伝いをしたりしています。実は、僕の弟と妹は孤児院から引き取ったのです。だから、僕と弟、妹は血が繋がっていません。あの2人は特に心に傷を負っていたので、孤児院で生活するのに支障がありました。だから母に頼んで2人を引き取ったのです」 「あら、そうだったのね。プライベートな話を聞いて良かったのかしら?」 「それはお気になさらずに。孤児院に訪問した時に牧師がポロっと言うかもしれませんから、事前にお伝えしたまでです」 「ロベールはトミーやエミリととても仲が良さそうだったから、本当の兄弟だと思っていた」 「まあ、仲がいいことは間違いではないですね」 「それにしても、トミーやエミリはそんなに悪かったの? 私にはそんなふうには見えなかったけど」 「二人とも完全ではありませんが、かなり回復しました。もう少しです」 「そうね。良くなってほしいわ」 「それよりも、またエミリと遊んであげてください。昨日遊んでもらったのが相当嬉しかったみたいで、『マーガレット様はいつ来るの?』と楽しみにしています」 「あら、嬉しいわ。もちろん、エミリに会いに行くわ」  私たちが孤児院に着くと牧師が出迎えてくれた。 「これは公爵令嬢のマーガレット様ではありませんか。今日はどうなされたのですか?」  牧師は警戒しながら私に質問しているように見える。何かあるのだろうか?  牧師が何を警戒しているか気になるものの、私は普通に返答をした。 「特に深い意味はありません。ロベールに誘われてきただけですわ」  私はロベールについて孤児院の中に入った。中には子供たちが仲良く遊んでいた。  子供たちの年齢は5歳くらいから10歳くらいまでが多いように思う。 「うわー、きれいなおねえさんだー。ロベールのガールフレンド?」  男の子2人が私たちの周りを取り囲んだ。 「ちがうよ。こんなきれいなお姉さんが僕のガールフレンドのわけがないでしょ」 「そっかー。ロベールはモテないからなー」  そう言うと2人の男の子は牧師のところに駆けていった。  私が走っていく男の子たちを見ていたら「おねえさん、ボール蹴りやろうよ」と別の男の子が私に言った。 「いいわよ。ここだと狭いから、お外に出ましょうか?」  私がそう言って男の子と外に出ようとしたら、ロベールが走ってきた。 「こら、マーガレット様の洋服が汚れるだろ。ボール遊びは僕とやろう」  ロベールは男の子を連れて孤児院の外に出ていった。  次は2人の女の子が私に話しかけてきた。 「おねえさん、人形遊びをしようよ」  私は「いいわよ」と言って女の子たちと遊びはじめた。  子供たちが遊び疲れて私たちが帰ろうとしたとき、ロベールは「サラを見ないけど、どうしたの?」と牧師に聞いた。 「実は、サラがいなくなった……」  ロベールが歩みを止める。 「え? サラが? いつ?」 「昨日だ。子供たちは『貴族の馬車で連れていかれた』と言っている」 「貴族が誘拐したって言うのかい?」 「私が見たわけではないから、本当に貴族かどうかは分からない。でも、馬車を使っているのは貴族だけだから、その可能性は高いと思う」 ――孤児院から子供を誘拐する貴族がいるなんて……  公爵家として許せない事態だ。私は牧師に質問した。 「牧師様。貴族の馬車であれば家紋が入っているはずです。その馬車に家紋のようなものは付いていなかったのですか?」 「それは……」 「その馬車を見た子供に話を聞くことはできますか?」 「マーガレット様、もちろんです」  牧師はそう言うと孤児院から男の子2人を連れてやってきた。  先ほどロベールに私のことをガールフレンドかを聞いた男の子たちだ。 「僕たち、サラが連れ去られた馬車に、模様のようなものは書いてなかったかしら?」 「うーん。剣が書いてあったと思う」 「僕はヘビみたいなマークを見たよ」  剣とヘビ。この図柄を使っているのは…… ――ハリス侯爵家!  私の婚約者のハーバートが誘拐に関わっているのだろうか?
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