光の道

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 私が命を失って、もうどのくらいになるのだろうか。  初めは、少したちの悪い風邪だと思っていた。何日も高熱が続き、気づかないうちに肺炎を引き起こしていた。病院に担ぎ込まれた頃にはもう、手遅れになっていた。  私の遺体に泣きつく家族を、空から他人事のように眺めていた。その時になって始めて、自分が死んだのだと自覚したのだ。  もっと話したいことがたくさんあった。手を差し伸ばしても、触れることすら出来ない。やがて、私の魂は強制的に世界から切り離された。  冥界とは死者が住まう世界のこと。正確には住むという表現は少し違う。死者は永遠に眠り続けるだけ。静寂が支配する無の世界だ。  時折、ぼんやりと半覚醒して周りの様子を眺めることがある。紫色の空と、岩が覆う無機質な大地は、何ひとつ変化しない。私はそれを確認してから、また眠る。永遠に繰り返される眠りの日々。死とは、即ち永久の不変を意味するのだ。  ある時、一陣の風に乗って、声が聞こえてきた。   再び光を求めるならば   己が来た道を顧みず   天へと続く道を行け   さすれば望みが叶えられよう  歌っているような、それでいて抑揚がない、独特の声だった。なんとなく耳を傾けていると、天から光が差し込み始めた。  冥界には決して日の光が差すことはないはずだ。その光が何か大きな力によって生み出されたものであることはすぐにわかった。
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