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「あなたが不要だと仰るのなら、他の誰かに捧げるまでです。退いて下さい」
「お断りします」
一度すれ違ってしまえば、二度と彼女を止められなくなる。私は両腕を開いて立ち塞がった。
「正直に言います。私はあなたを死なせたくない」
「なぜです」
「あなたをもっと知りたいと思うからです」
気高く、それでいてどこかで悲しみをたたえる彼女の目は、私の心を捉えて離さないのだ。
「すみませんが、他人のあなたに教える義務はないと思います」
「確かにその通りです。でも、命を捨てようとされている方を、放っておくことは出来ません」
「随分、勝手じゃないですか」
そう言って押し通ろうとする彼女を、目で制した。怯んだ彼女が一歩後退りする。
「そこまで仰るのなら、せめて理由を教えてください。それを聞くまでは、ここは絶対に通しません」
彼女はじっと私を見つめていたが、諦めたようにため息をついた。
「……まさか、こんなところで私に構う人に会うなんて」
「えっ?」
「私の体の痣、気にならないのですか?」
そう言って、彼女は自嘲気味に笑う。私にはなんのことだかわからない。目の前にいる彼女は、白くて綺麗な顔をしているが。
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