光の道

7/12
前へ
/12ページ
次へ
「痣とは? わたしには痣なんか見えませんが」  彼女は驚いて右の頬を触った。 「……そういうこと。ここでは姿が違って見えるのですね。あなたが優しい理由がわかりました」  彼女が見透かしたかのように笑うのが、少し癇に障った。 「生きている間、私に構う人なんていませんでしたよ。みんな私を腫れ物に触れるように、避けるんです。それなら、面と向かって罵られる方がまだよかった。誰にも必要とされないのなら、いっそ命を捧げてしまった方がいいんです」 「なんで簡単に諦めるんですか」  気づいたときには、彼女に向けて声を荒げていた。 「実際のあなたがどんな顔をしているのかはわかりません。ここは魂の世界ですから、今のあなたの姿はきっと心を写したものなのでしょう。少なくとも私には、とても美しく見えますよ」  止めようと思うのに、言葉が溢れてくる。じっと聞いている彼女に向けて、僕はさらにまくし立てた。 「生きていれば、いろんな人間に会うでしょう。誰しも善人ばかりじゃないし、生きるだけで大変だというのはわかります。でも、一度死んでしまえば、そこで終わりなんですよ」  私の勢いに押されたのか、彼女は黙ってこちらを見つめている。 「私は病気で死にました。正直、死ぬなんて思ってもいなかった。気がついたら、自分の死に顔を見ていたんです。悲しむ家族に声をかける事も出来ませんでした」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加