君はとくべつ

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「虹輝ー!」 背後から声をかけられて虹輝は振り返る。 商店街の中、サンドイッチ店の店先にいるのは小学校からの付き合いで今も同じ学校、腐れ縁の優斗だ。 そのサンドイッチ店の二軒先にあるパン屋の食パンを使ったふわふわのサンドイッチはとても人気で、売れ筋の商品は昼過ぎには売り切れになってしまうほど。 どちらも優斗の家が経営しており、パン屋の方は優斗の父が、サンドイッチ店は母が切り盛りしているらしかった。 虹輝の家の花屋もこの商店街の端にあるため、花火の時に会った井坂もそうだが、この商店街の子供たちはほぼ幼馴染と言っていい。 商店街は二路線がクロスする駅から続く十字型で、全天候型の全長200メートル、大型アーケード街だ。ありがたいことに常に人で溢れ賑わっており、虹輝の家は駅から向かって100メートルほど歩いた中頃を右側に折れた十字のはじっこにあった。その先が成宮総合病院や、成宮家がある高級住宅街へと続くので人の流れは多い。 「優斗、久しぶり」 「海以来だな。夕飯の買い物か?」 「うん。魚屋に行ってきた」 「相変わらずだな。ちょっと寄ってけよ」 来い来いと手招きされるのにショーケースの横、人ひとり入れる狭い入り口から中へと入る。 「あら、虹輝くんじゃない、久しぶりね」 「ご無沙汰してます」 優斗の母がちょうど外に出ようとしていた時で、虹輝は頭を下げた。 「ゆっくりしてって! 優斗、さっきの虹輝くんにもあげなさい」 優斗がおざなりにおーと返事をするのをはいでしょ!と小言を言いながら店から出ていく。店舗にはパートももうおらず、優斗と虹輝のふたりでショーケースにもほとんど商品は残っていない。基本、売り切りのため夕刻には閉まっていることが多い。 「何、店番?」 「そ、試作品食べていいからいろってたまに頼まれるんだよ」 優斗はそう言いながらショーケースの手前、客側からは見えない位置にあるサンドイッチを取り出した。 「ほい、おやつみたいなもん」 「わ、ありがとう、うまそう!」 まだ季節には早いであろうシャインマスカットの入ったフルーツサンドだ。 フルーツサンドは見た目のかわいらしさから女性に人気があるのだろう。昼頃にはすべて売りきれるらしく虹輝はあまり口にしたことがなかった。 ありがたく試作品にかぶりつけばふわふわのパンと甘さ控えめの生クリーム、果汁たっぷりのマスカットが絶妙でとてもおいしい。 「食べ物扱うとこういうの役得だよな」 「毎日だと飽きるけどな」 優斗は少しばかりうんざりしたようにそう言いながらもマスカットはおいしいのか大きな口を開けて食べている。
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