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「お兄ちゃんも来るならお兄ちゃんの分も作ろうか」
ひとりもふたりも一緒だ。虹輝の提案にパッと二人の顔が明るくなる。
「いいの!?」
「杏奈ちゃんのお兄ちゃんさえいいならな」
「杏奈、一生懸命説得するね!」
「俺も!」
「はいはい、じゃあ、お手伝いしてもらおう。冷蔵庫からレタスとプチトマト、いんげん取って」
「はあい!」
ふたりは冷蔵庫を漁ってダイニングテーブルに座ると虹輝の指示に沿ってプチトマトのヘタやいんげんの筋を取り出した。
それに微笑みながらも先ほど浸けた鶏肉を取り出し醤油とゴマ油を足すとまた冷蔵庫へと閉まう。
そうして米を炊飯器にセットしたところでいんげんを胡麻和えにし、後は米が炊き上がるのと同時、唐揚げを揚げればいいと居間へと戻る。
「お手伝い、ありがとな」
「楽しかったよ!」
杏奈は嬉しそうにそう言う。
聞けばお手伝いはしたことがないのだと言う。母親がいなくて父親は医者なのに、今の家に来る前の食事はどうしていたのだろう。
「お手伝いがなくてもお兄ちゃんがちゃんとやってたんだな」
「ううん、ご飯は大体買ってきたものだよ。お兄ちゃんはお料理苦手なの。お兄ちゃんと、あ、えっと、陽太くんのお兄ちゃんとね」
紛らわしいのだろう。一生懸命説明しようとする杏奈に微笑む。
「俺のことは虹輝でいいよ」
「あ、じゃあ虹輝くん!」
「うん」
妹とはこんなに可愛い生き物なのだろうかとしみじみしてしまう。
「あのね、虹輝くんはね、杏奈のお兄ちゃんと同じ制服なの」
「え?」
問い返したところでピンポンと玄関のチャイムが鳴った。
「杏奈ちゃんのお兄ちゃんかな、はーい……って、え!?」
虹輝はインターホン越しに映る人物を見て驚いた。背筋を正したすらりとした姿。
「成宮?」
『うん、もしかして佐藤?……杏奈の兄です』
こんな偶然があるのかと驚きながらも店の入り口を抜けて玄関へと向かう。ドアを開ければそこには慈雨が立っていた。
少し考えればその整った顔立ちはよく似ている。美形兄妹とはこのふたりのことだ。
「杏奈が迷惑かけたみたいでごめん」
「迷惑なんてかかってない。うちの陽太と友達だったみたいだな。すごい偶然」
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