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「ほんとにね。あ、これよかったら」
慈雨が持ってきたものは商店街にある洋菓子店の包みだった。本店は代官山にある洒落た店のものだ。
こんなところまで気を使えるとは、噂に違わぬ完璧王子。
「わざわざいいのに。上がれよ」
「いや、俺は杏奈を迎えに……」
「お前達の分ももう計算に入れて下拵えしたから食べてくれないと困る」
虹輝はそう言うと促すように家の奥へと歩き出した。
「佐藤!」
慈雨は慌てたように靴を脱ぐ。
家に入れてしまえば食べていくしかないだろう。楽しそうなふたりに少しばかり協力してやろうと居間へと通した。
そこに父親が帰ってくる。
「お、なんだ、陽太のガールフレンドが来てるんだって? おぉ、ずいぶんと美人さんじゃないか、やるなぁ陽太」
その意見には同意だ。
「な、なにいってんだよ! 友達だし!」
「ガールフレンドって友達のことだよなぁ、虹輝?」
どうやら父は陽太をからかいたいらしい。
「まぁそうだね」
「そ、そうなのか?」
騙された陽太に父が笑う。そうして慈雨に気づいた。
「そしてこちらさんもえらい美形だね」
「お邪魔しています。杏奈の兄で、虹輝くんのクラスメイトの成宮慈雨と申します」
「しっかりしてるなぁ!兄弟揃ってこんな美人と友達なんてお父さんビックリだよ」
あははと笑って居間に座る。
「色々うるさくて悪い、座ってて」
「佐藤、俺たちは帰るよ」
「やだー! 虹輝くんの唐揚げ食べてくもん」
杏奈が膨れる。それに慈雨が険しい表情を浮かべた。
「ご迷惑だろ」
「まぁまぁいいじゃない、食べていきなよ」
こういう時、父の鷹揚さに救われる。客商売のため、物腰柔らかであたりもいい。その場を任せて夕食を作ってしまうのが一番いいと、虹輝はキッチンへと入った。
そうして大量の唐揚げを作ると陽太達に手伝いを頼んだ。杏奈を置いてきぼりで帰るわけはないだろうが成宮の姿がない。
「成宮は?」
早々にビールの缶を開けた父に聞けば家に電話をしているらしい。虹輝は廊下へと出た。
そうして玄関先で電話をしている慈雨の背中を見つける。
「はい、友人の家で夕食をごちそうになることになりまして……はい、杏奈も一緒です。はい、よろしくお伝えください」
「……随分他人行儀だな」
電話を切った慈雨に不思議に思ってつい問いかければ皮肉げに笑った。
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