第一部 完璧王子

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第一部 完璧王子

「行ってきます!」 「陽太、待て!お前、給食当番の白衣忘れてるから!」 店の入り口から元気よく飛び出していこうとするランドセルの首根っこを掴む。 「うえっ……サンキュー兄ちゃん!」 遅れそうなのか、虹輝の手から真っ白に洗濯された給食袋を掴むと、陽太はまたも走り出した。 「こら、陽太!店から出入りするなって何度言ったら分かるの!?」 店内で色とりどりの花を出している母親に咎められるのに、虹輝自身も同じく店から出て行こうとしていただけに苦笑いを浮かべてから傘が置かれたままなのに気づいた。 「あいつっ……」 今日は午前中から雨が降ると言っていた。寝ぼけた顔で朝ごはんを食べていた陽太に弁当の支度をしながら傘を持っていけと伝えたというのに。 やはり聞いていなかったのだと慌ててその傘を掴んで後を追おうと店を出た時だった。 「陽太、傘……」 「痛っ!」 きっと前を見ていなかったのだろう。 誰かにぶつかったらしく、ドスンと陽太が尻もちをつくところに出くわした。慌てて駆けよれば、ぶつかったと思われる虹輝と同じ制服を着た少年がこちらを見た。 それにどきりと心臓が跳ね上がる。 「……成宮(なりみや)」 虹輝の呟きに少年はほんの少し驚いたように瞳を丸くしてから、それよりもまず、と陽太に手を差し出した。 「大丈夫?」 「ご、ごめんっ……うちの弟がぶつかっていったんだろ?成宮こそ怪我してない?」 「俺は大丈夫、それよりごめんね?」 そう言いながら陽太の目線に屈むと尻についた埃を優しく払ってやっている。手慣れたものだ。 「陽太、お前が前を見ずに走っていくのが悪いんだからな、謝れ」 軽くその頭に拳骨を振り下ろすとバツの悪そうな顔になって頭を下げた。 「ごめんなさい」 「ちゃんと謝れてえらいな、俺は大丈夫だよ。これからは気をつけて」 見惚れてしまいそうな柔らかな笑顔に陽太はパッと表情を変える。 「うん!」 そうして虹輝の手から傘を奪うと、懲りずに駆け出した。 「あ、おい!ちゃんと周りを見ろよ!」 慌てたように声をかける虹輝に後ろ手を振り返すのに、分かっているのかいないのかと溜息を零す。 それに隣から軽やかな笑い声が聞こえた。
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