第一部 完璧王子

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「元気だね、佐藤の弟」 「元気すぎて困る。悪かったな、ぶつかって」 「平気だよ」 成宮慈雨(なりみやじう)は先ほどと同じように微笑むと歩き出す。タイミング的にも一緒に歩き出さざるを得ず、虹輝は慈雨の隣に並んだ。 「あら、虹輝、行ってらっしゃい」 陽太の小学校と虹輝の高校は家から向かって真逆だ。店先にセールの花束を出していた母が声を掛けてくるのに行ってきますと答えれば、隣の慈雨も微笑んで軽く会釈した。 母は先ほどの顛末を見ていなかったのだろう。慈雨にも行ってらっしゃいと声をかけるとせっせと商品を並べ始めた。そうでなければ陽太はこっぴどく叱られていたに違いない。 「そこの花屋さん、佐藤の家だったんだね」 「ああ、うん」 人好きのする微笑みを向けられて慌てて頷く。慈雨が自分を認識しているとは思わなかったのだ。 虹輝よりも十センチほど高いであろうと思われる慈雨をちらりと盗み見上げる。新学期が始まってまだ二週間程度だが、二年生になってからのクラスメイト。 すらりとした体躯に長い手足、顔は小さくモデルのようだ。少しばかり外国の血が混じっているのでは、と思うような柔らかそうな濃いミルクティー色のさらりとした髪、国宝級イケメンだって逃げ出しそうな整った容貌。 黙っているとまるで作りもののように綺麗なその男はスポーツもそつなくこなし、学年でトップ3には入る秀才だ。 その上誰隔てなく親切で性格もいい、家は代々医者という家系の出らしく、何を取っても欠点のない男。 そして年上の美人と付き合っているとかいないとか、女性関係の噂は数多だ。 まるでお伽噺の王子様みたいと女子が騒いでいたから知っている情報だけでも、男として人間として敗北を認めないわけにはいかない勲章の数々だ。 こうも違えばまるで別次元の話なのか、大抵の男はやっかみも覚えない。もちろんその屈託のない性格もあるのだろうが。 だが、虹輝からしてみれば慈雨は少しばかり胡散臭い。 虹輝は昨年見た光景を思い出して小さく頭を振った。
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