第一部 完璧王子

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とにかく、慈雨はあまりにも完璧すぎて不自然だ。 誰にでも優しく、どんな時でも笑みを絶やさない慈雨に違和感しか抱かない。そんなことを言えばただのやっかみにしか聞こえないだろうことは分かっているので誰にも言ったことはないし、そもそもそう言えるほど彼のことを知っているわけでもない。 両親を手伝えるという理由で通学費もかからない近所の私立進学校、特待生であれば学費もかからないため、必死の思いで入った虹輝とはわけが違う。 大きな総合病院のすぐとなり、小さな花屋を営む虹輝の家はごく普通の一般家庭だ。 両親ともに朝早くから市場へ仕入れに向かい夜遅くまで働いている姿を見ている。 この時勢、小さな個人経営の花屋など先行きも不透明、虹輝だけでなく弟の陽太だっている。できることなら大学にだって行きたい。少しでも金がかからず勉強できるにこしたことはないのだ。 「佐藤の弟、すぐそこの公立小学校だよね?」 柔らかな声で慈雨が聞くのに意識を引き戻される。 「うん、そう」 「そうなんだ、じゃあうちの妹と同じだ」 「え、じゃあ、成宮の家って近所なのか?」 「祖父の家だけどね。高校に入る年に越してきたんだ」 「そっか」 どうりで小中学校と同じじゃなかったわけだと納得する。そしてはたと気づいた。 この道路横に広がる巨大な病院の名前は成宮総合病院、つまりはこの病院経営の一族ではないかと。 誰かが聞いていれば今まで気づかなかった方がおかしいとツッコミを入れられそうだが、同じクラスになって日も浅い上、慈雨と接点もないのだから仕方がない。 国道の向こう側に確かお屋敷があったはずだと思い出す。 医者一家という噂は本当だったらしい。そうして御曹司であることも事実らしい。神様というやつは不公平すぎるのでは、と思わずしみじみと慈雨を見つめた時だった。 ポツリ、と雨が虹輝の頬を叩く。 「……思ったより早いな」 思わず舌打ちをしてしまえば慈雨も空を見上げた。
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