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「今日、雨の予報だったんだ?」
「朝の天気予報では昼前からってことだったけどね」
まだ傘はささなくて大丈夫かと掌を空へと翳す。
「今日はせっかくのスポーツ親睦会なのにね」
「悪い」
ぽつりと呟かれた慈雨の言葉に思わず謝れば、慈雨は不思議そうに虹輝を振り返った。
「なんで佐藤が謝るんだよ」
「雨は大っ嫌いなのに、俺、雨男なんだ」
虹輝のすまなさそうな声に慈雨が一瞬ぽかんとしてから噴き出す。
「あはは、そうなんだ? なに、佐藤、楽しみにしてたの?」
「うちの学校って行事があまりないだろ?」
屈指の進学校だ、基本勉強漬けの毎日の中、ほんの少しばかりの息抜きのひとつなのだからないよりはあった方がいい。
新学期が始まって2週間、勉強にも大して影響のない時期で、新しいクラスの団結を促すために行われていると聞いた。
「まぁ確かにね。そっか、佐藤って雨男なんだ。あ、じゃあ俺といたら相殺されて曇りかもよ?」
どこか楽しそうに笑う慈雨を見つめ首をかしげる。
「俺、晴れ男なんだ」
明るい笑顔に性格。妙に納得した時だった。いきなり雨脚が強まる。
「って言ってるそばから佐藤に負けた!」
それでもどこか楽しそうな笑顔はやはり好感がもてる。
虹輝が持っていた傘を広げようとした時だった。
「慈雨くーん、おはよー!」
背後からパタパタと足音がして虹輝と慈雨の間に女生徒がふたり割り込んできた。その際に肩が当たって虹輝はよろめいた。
「おはよう、……佐藤、大丈夫?」
「あ、ああ、平気」
「やだ、ごめんね? 佐藤くん」
悪いとも思っていないようなそぶりでそう言う女生徒に頷く。
虹輝は一歩下がった。すると女生徒は慈雨の両脇を固めると派手な赤い色の傘を開く。
「慈雨くん、入れてあげる!」
「えっ、ずるい、あたしの傘に入れてあげる」
都内屈指の進学校だから頭は悪くないだろうに、どうにも頭が軽いように見えてならない。そんなことを言っては失礼だろうが、ちょうど鞄の金具が当たった手が地味に痛くて虹輝は気づかれないように小さくため息をついた。
ふたりはクラスの中でもお洒落で流行りに敏い、いわゆる女子社会のピラミッドの頂点に立っている部類だ。
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