恋は儘ならない

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「どの辺からやる?」 「数学かな」 「あ、じゃあ俺も数学にしてあやふやなとこ教えてもらいたい」 オールマイティーなのだろうが意外だった。そんな思いが顔に出たのだろう。慈雨は少し困ったように笑った。 「……俺、どっちかと言うと文系のが得意なんだ」 「え?」 慈雨の告白に驚く。 虹輝と慈雨のクラスは理系なのだ。二年に上がる時に系統によりクラス分けが成される。 「去年までは文系科目で結構採れてたから良かったんだけどね。今年からは誤魔化し効かないから頑張らないとなんだ」 「じゃあなんでわざわざ理系……」 慈雨が笑う。 「ほら、俺、医学部いかないとだから」 「っ……」 ようやく合点がいった。成宮は医師の家系だ。当たり前のようにそれを求められている。 「それ、お父さんから言われてんの?」 「いや、父さんは何も言わないけど」 やはり、と思う。 慈雨に強要しているのは祖父なのだろう。認めないくせ自分の要求は押し通そうとする。その要求をクリアできれば認められるのではないかと淡い期待を抱かせるやり方は傲慢以外のなにものでもない。 認められなくてもいいと言いつつ、やはり一緒に住んでいる以上プレッシャーにはなっているのだろうし、できることなら認められたいだろう。正式に血の繋がった肉親なのだから。 「医者になるのはお前の意志でもあるの?」 「え?」 教科書を開いていた慈雨が顔を上げる。それから少し困惑した顔になる。 「……あまり考えたことなかった。それが正解だと思ってたから」 ああもう、と歯噛みしたくなる。 虹輝はまっすぐに慈雨に向き合うと強く見つめた。 「慈雨」 言い聞かせるように静かに名を呼べば、グレーがかった瞳が見開かれる。 「俺はお前がやりたいことやればいいと思う」 「っ……」 まっすぐに見つめた瞳は揺れるように虹輝を見つめ返す。誰かの思い通りじゃなくていいと分かってほしかった。 「絶対医者にならないといけないなんてない。それが慈雨の望むものじゃないならなおさら」 一瞬押し黙った慈雨の表情が変わる。 それにとくんと心臓が飛び上がった。ドキドキと早くなる鼓動がうるさい。
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