恋は儘ならない

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「お肉のおかわりはあるからたくさん食べてね」 虹輝の家では滅多に見られない綺麗なピンク色の見事な霜降り肉に目を奪われる。 「すごい、……いただきます」 恐縮しながら慈雨の隣で手を合わせる。 慈雨の向かいには慈雨の祖母がいてにこにこと微笑んでいる。 家政婦が虹輝に水の入ったグラスを置いてくれたのに会釈しながら盛られた野菜を一人用の鉄鍋へといれる。 ふわりと出汁のきいた割り下が鼻を擽り、先ほど菓子を食べたというのに腹がきゅうと鳴った。 一人一人に出されたすき焼きはなんて贅沢なのだろう。黄身の濃い卵を溶いて野菜が煮えるのを待つ。その上に霜降り肉を載せて食べるのは関東風だ。 「おいしい……!」 思わず漏れた声に慈雨の祖母は笑みをこぼした。 「たくさん食べてね。やっぱり若い男の子にはお肉よね。慈雨ったらなに食べてもなにも言わないし、聞いても美味しいですしか言わないのよ」 やはりここでも考えすぎて壁を作っているのだと知る。だが、反対に身内だからこそその他大勢の女子達のようにできないのだろうかとも思う。 (こう見えてほんと真面目で不器用なんだよな) チラリと慈雨を見れば少し困ったような笑みを浮かべる。 「本当になに食べても美味しいんですよ。うまく言えないだけで……」 「そうなの? じゃあ慈雨の好きなものってなにかしら?」 虹輝がいることで祖母も聞きやすいのかもしれない。 「虹輝が作る唐揚げが好きです」 「は!?」 言うに事欠いて何を言い出すのだとぎょっとし、家政婦もそこにいるのに空気を読めと目で訴える。 「あら、虹輝さんはお料理なさるの」 「あ、はい、その、両親が仕事で忙しいので必要に迫られてなんですが」 「俺も3人で住んでいた時は必要に迫られてたけど全然だめだったからセンスがあるんだよ」 にこにこと虹輝を誉めるがそれは今ではない。 「そうなのね。わたしもいただいてみたいわね」 「いえっ、俺のは本当に普通の唐揚げなので」 「中村さん、あとで虹輝さんにレシピ教えてもらって」 「ええ、ぜひ」 控えていた家政婦は嫌な顔もせずににこにこと頷いた。 「そんな……こんな美味しい割り下作るようなプロに教えるなんて恐れ多いです」 虹輝はおろおろと頭をふった。 「プロだからこそ美味しいものへの探求心が旺盛なんですよ。あ、ではこの割り下のレシピと交換しませんか?」 家政婦はいい人のようだ。孫のような年齢の虹輝に教えを請うなんて嫌ではないのだろうか。もしくは孫のような年齢だからこそ微笑ましいと思ってくれているのか。なんにせよここは断れる場面ではない。 「ではお言葉に甘えて」 虹輝は恐縮しながら頷いた。
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