恋は儘ならない

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模擬試験を無事に終えて、後は明日の終業式を待つといった火曜日。 虹輝はまた慈雨の家へと向かっていた。 空は鈍色で雨模様。遠くで雷鳴が響き、重い雲に時折瞬くように光が映る。梅雨も開けそうなそんな日だった。 「雷近づいてきそうだね。急いで帰ろう」 「そうだな」 湿気が多いせいか纏わりつくような空気に、少しでも涼しくなるようにシャツの胸元をパタパタと引っ張る。それを見て慈雨が笑う。 「夏だねぇ」 「もう夏休みだしな」 「夏休みの予定は?」 「うーん、うち店もあるし盆まで忙しいし、基本それぞれかな。中学の友達と遊びに行ったり」 「どこ行くの?」 「海とか予定はしてる」 「……そうなんだ」 ざっと雨が強くなる。パタパタと傘を打つ雨の音が激しくなるのに意識を奪われた時だった。 「俺とも出かけない?」 慈雨が静かに虹輝を見つめる。 一瞬どきりとするも虹輝は頷いた。 「うん、いいよ」 「ほんと!?」 パッと嬉しそうな顔になるのがくすぐったい。顔にあまりでないが、虹輝だって嬉しい。 「どこ行く?」 「虹輝、絶叫系アトラクションって大丈夫? 実はつかさがフリーパス持ってて、行けるならくれるって言ってたんだよね」 某県にある有名遊園地の名前を口にする慈雨はどこか楽しそうだ。 「俺は大丈夫だけどチビ達は乗れないんじゃないか?」 「えっ? あ、今回は二人でと思ったんだけど、陽太達もいなくちゃダメかな?」 思ってもみなかった慈雨の言葉に瞬く。そして慌てる。 「あ、別にいなきゃってことじゃないけど、ほら、なんか一緒に出かける時ってだいたい一緒だろ」 「まぁそうだったね」 「だから、その、習慣っていうか……うん、二人で行こう」 虹輝のはっきりした返事に慈雨はパッと笑顔になった。 「良かった!」 行きたくないわけがない。ドキドキする胸を必死になだめながらも嬉しい気持ちは止められない。 遠くで轟く雷よりも大きな鼓動が伝わってしまいそうで、虹輝はパタパタと楽しそうな音を鳴らす傘の柄を握りしめた。 「いらっしゃい、虹輝さん」 玄関まで慈雨の祖母が出迎えに来てくれて驚いた。 「こんにちは、お邪魔します」 虹輝は見られていることに緊張しながら靴を揃えた。 「待っていたのよ。こちらへ」 嬉しそうに微笑みながら虹輝を連れていったのは慈雨の部屋へと続く廊下の脇の和室だった。 「今お茶を用意するからゆっくりなさってて」 「俺も鞄置いてくるね」 慈雨と祖母が席を外し、ひとりになってほっと息を吐く。 八畳二面続きのそこは立派な欄間、床の間と夏の花が飾られた旅館のような空間だった。客間だろうか、と思いながら一枚板でできているであろうテーブルの前の座布団に座った。ふかふかだと感動していた時だった。
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