恋は儘ならない

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「虹輝くん、いらっしゃい」 勢いよく襖が開いてびくりと肩を震わせる。 「つかささん?」 「久しぶりねー」 当たり前だが白衣もなく髪をおろしたつかさはまるで別人のようでぱちくりと瞬く。 「お休みなんですか?」 「ええ、たまには有給使わないとね。さっきまで出かけてたんだけど虹輝くんが来るっていうから久しぶりに実家に帰ってきたの」 慈雨の祖母もつかさもなぜか虹輝に親切だ。つかさはともかく、祖母は慈雨ともっと距離を縮めたいのだろうと思う。 もしかしたら祖父の手前何もできなかったことを悔いているのかもしれない。 もっと慈雨と仲良くなりたくて虹輝はその為の緩衝材なのかもしれない。 だが、それでもいいと思った。 慈雨が虹輝がいることによって家族と打ち解けるのは虹輝としても嬉しい。 「虹輝くん、夏休みはどうするの? 夏期講習とか行くの?」 「今年は行かないです。来年はさすがに受験だし行かなきゃな-とは思うんですけど」 「そう。慈雨は集中講座だけ行くんだけど、夏休みも変わらずかまってやってね」 「そんな、俺の方こそです。あ、動物園のチケットに続いて遊園地のチケットまでありがとうございます。俺までおこぼれいただいてしまって」 「慈雨はもっと友達と遊んだ方がいいのよ。成宮に変な義務みたいなの感じてるでしょう?」 つかさの言葉に、慈雨の居場所がちゃんとここにあるような気がしてホッとした。もしかしたら慈雨の気晴らしになるようにつかさはわざわざチケットを購入したのかもしれないと思い当たった。 虹輝が心配するようなことでもないかもしれないが、できることなら友人が辛い思いをしない方がいい。 友人、という括りに少しばかり罪悪感を覚えるが、慈雨にとっての虹輝は友人だ。例え虹輝が邪な気持ちを抱いていたとしても。 片想いとはこんな感じだったかと久しぶりの感覚に苦笑いを浮かべる。 「今日は夏祭りの浴衣を作るんですって?」 「そうなんです。俺のまで作ってくださることになって」 「そんなの貰っとけばいいのよ、お母さんも楽しいんでしょう。虹輝くんの分も作れば慈雨も遠慮しづらいでしょうし」 「確かにそうですよね」 「あ、この言い方だと虹輝くんをダシにしてるわね、ごめんなさい」 つかさは舌を出して謝った。 「あはは、別にいいですよ。いくらでもダシに使ってもらって。そのお陰で俺もいい思いさせてもらってます」 あえてそう言い方を選べば、つかさは目を細めた。 「ほんと、慈雨が虹輝くんに出会って良かった。ありがとう、これからも仲良くしてやってね」 よこしまな想いを抱いている虹輝に全幅の信頼を寄せてくれている。申し訳なく思いながらも消せそうにない想いだ。だが、この思いは伝えることもなくいつか消えていくもの。ひっそりと静かに思うことくらい許してほしい。 「……こちらこそです」 虹輝は後ろめたい想いを抱きながらつかさに笑顔を返した。
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