恋は儘ならない

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その後、外商がやってきて慈雨と虹輝の採寸をし、生地を慈雨の祖母とつかさが楽しそうに選んだ。 まさかの百貨店の外商から購入するとは思っておらず冷や汗をかいた。百貨店で作るオーダーメイドの浴衣はいったいいくらするのだろうか。陽太の浴衣もと言ってくれたのだが、昨年買ったものがあるからと断ってよかったと心底安堵する。 母親に話したら目を回してしまいそうだと虹輝はうーんと唸った。 「虹輝?」 「あ、うん、大丈夫」 虹輝は隣で訝しげに名を呼ぶ慈雨に笑みを返す。ここで今更言っても慈雨に気を遣わせるだけだ。 ようやく暗くなってきた夕飯時の空を眺めながら慈雨と一緒に虹輝の家へと向かって歩く。どこの家庭からか魚を焼く匂いがして途端に腹が鳴りそうになった。 今日は母親が何かを作っておいてくれると言っていたから気が楽だ。 「浴衣、楽しみだね」 「うん。俺の分までありがとう」 「いいんだよ、何より祖母が楽しそうだったんだから」 「そう思っておく。出来上がるの、お盆前だっけ?」 「うん。出来たらまた連絡するよ。あ、そうだ、だいぶ先の話なんだけど、夏休みの最終日、うちに来れない?」 「え?」 「ちょっとお披露目したいものがあるんだよね。もちろん陽太も一緒に」 少しばかり悪戯っぽい笑みに首を傾げる。 「大丈夫だけどお披露目ってなんだよ」 「それはまだ内緒」 「なんだそれ」 「杏奈が見せるまでは内緒だって」 杏奈が言うのなら仕方がないかと黙れば慈雨は苦笑いした。 「虹輝って杏奈に甘いよね。だから杏奈が懐くんだよ」 慈雨のどこかすねたような声に虹輝は笑う。 「お前が言うなよ」 「まぁそうなんだけど」 どこか腑に落ちないような顔をするのに笑ってから、正面からやってくる黒塗りの高級車に気づいた。 狭い道路なので道端に寄ろうとすればその車が虹輝たちの隣で静かに止まる。 そうして後部座席の窓が開いた。
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