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夏色デート
「わぁ、虹輝くんかっこいい!」
慈雨たちの祖母に浴衣を着つけてもらった虹輝を見て杏奈はぱあっと顔を輝かせた。
「ありがとう、杏奈ちゃん」
美少女に手放しで褒められて嬉しくないわけがない。虹輝は相好を崩した。
「髪の毛もすっごくかわいいね! 似合ってるよ!」
「つかささんにやってもらったんだ」
分け目を右寄りにして左側を少しばかり編み込んで耳の後ろで留めるという上級者向けの洒落た髪型に気後れした身としては褒められて胸を撫でおろす。
着心地のいいなめらかな手触りの紺の浴衣と相まってすっきりした印象で、つかさの上級者テクニックに舌を巻くばかりだ。
濃い紺色ベースに所々黒の桔梗模様の入った浴衣、合わせた白地の帯もさすがはいいものを見てきた慈雨の祖母とつかさだと思わずにはいられない。庶民の虹輝ですら上品でいいところの子息に見えるのだから。
「わ、虹輝、かわいい」
「可愛いって、しつれ」
虹輝の後に着替えさせられていた慈雨の声がして、かわいいなんて男に対して失礼だろと憤慨した声を上げた虹輝だったが、慈雨の姿を見て言葉を失った。
「お兄ちゃんもかっこいい!」
「ありがとう。次は杏奈の番だよ。可愛くしてもらっておいで」
「うん! 虹輝くんと同じ前髪にしてもらってくる!」
元気に返事をして杏奈が慈雨の入ってきた襖から出ていく。
「お待たせ」
「う、ん」
慈雨が笑って虹輝を見つめる。
濃いグレーの麻の浴衣に黒ベースに臙脂の細いストライプが入った帯。見惚れるほどに格好良くて、虹輝は言葉に詰まった。いつもはさらりとしている前髪を横に流しているのも格好いい。
(こんなの、街を歩いたら誰もが振り返るじゃないか……)
「その髪型、似合ってる。顔がよく見えていいね。あ、でも知らない人にまできっとじろじろ見られるかな」
それはいやだなぁ、と眉を寄せて呟く慈雨が下ろしてある方の前髪を耳にかける。その指先が頬にあたって、虹輝は赤く染まった。
「ど、どうせお前の方に視線はいくだろ」
パッと視線を外してそう言えばそうだといいんだけどと複雑そうな顔をする。
慈雨は買い被りすぎなのだと高鳴る心臓を宥めるようにして平静を装った。
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