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杏奈と陽太が近くの屋台に興味をそそられたのか歩いていく。それに続けば慈雨が口を開いた。
「今の子、仲いいの?」
「ん? ああ、中学校の時の仲いいグループの一人かな。商店街の総菜屋あるだろ、そこの娘だから保育園の時からの腐れ縁だよ」
「ああ、あの総菜屋さんか……いいね、幼馴染」
「あんまり女子っぽくなくて付き合いやすい奴だよ」
「そうなんだ」
虹輝の言葉に頷く慈雨の表情が取り作られていて少しばかり感情が読めない。虹輝は慈雨の頬を引っ張った。
「いた!?」
「変な顔してる」
「変な顔って……ひどいなぁ」
ふふと笑う慈雨がようやくいつもの顔になった時だった。
ひゅるると音がしてドォンと光の花が咲く。空気を震わす轟音とともにもう一つ。
金色一色の大玉が夜空に咲いて流れるように溶けていく。始まりにふさわしい華やかなそれを皮切りに次々と花火があたり一面を染めた。
「綺麗だ」
「うん」
見上げる虹輝の顔を見て慈雨が頷く。あまりにも見つめるものだから虹輝はきまり悪くてその不思議な光彩の瞳を睨んだ。
「花火見ろって」
「……見てるよ」
慈雨は楽しそうに笑って、先ほどのお返しとばかり虹輝の頬をぎゅっとつねって空を見上げた。
「あ、こら」
その横顔が花火の光を纏って眩しい。
虹輝はじんじんとする頬を撫でた。色とりどりの花火がその赤みを隠してくれることを祈りながら。
しばらく花火を見上げ人混みがひどくなってきたところでつかさから連絡があった。
「じゃあふたりは私に任せて楽しんでらっしゃい」
「ありがとう、つかさ」
「たまには高校生らしく、ね」
やはり気を遣ってくれたのだとわかって虹輝も頭を下げる。
慈雨と二人、名残惜しそうな子供たちと別れて歩き出す。
「何か食べる?」
「そうだな。別に腹は減ってないんだけど……あ、金魚すくい」
辺りを見回して明るいオレンジ色の安っぽい光源下にキラキラと輝く水面を見つけた。
「金魚すくい?」
「うん、子供の頃やりたくて、でも生き物は育てられないから駄目だって言われてやったことないんだよね。やってみたい」
「そうなんだ、いいね、じゃあやろう」
慈雨は笑って虹輝を金魚すくいの屋台へと促す。
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