夏色デート

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「おじさん、二人分お願いします」 金魚すくいの親父店主は慈雨が差し出した金を受け取るとがははと笑ってポイを寄こした。 「イケメンの兄ちゃん、彼女にいいとこ見せろよ!」 虹輝が慈雨の影になって見えなかったのだろう。 「残念ながら彼女ではないですけど、いい所見せるようには頑張りますよ」 慈雨はそんなことを言って笑いながら虹輝にポイを一つ渡してくれる。 「お、なんだ、ツレは友達か。そっちの別嬪の兄ちゃんも頑張んなよ」 「イケメンに負けないように頑張ります」 別嬪とはずいぶんなヨイショだと思いながらも店主の言葉を攫って虹輝は澄ましてそう答えた。店主は大いに笑ってほかの客から金を受け取っている。 虹輝は慈雨と並んで水面を見つめた。 「虹輝、どれ狙い?」 「うーん、出目金が可愛い」 のほほんと泳いでいる黒の出目金を指してそう言う。 「俺は白に赤い模様にしようかな」 すいすい泳いでいる元気な金魚を慈雨が見つめる。体はスマートなのに長い優雅な尾鰭を持っていた。 「それ、難しそう」 「そう? 意外とこういうやつの方がさっと取れそうじゃない?」 「よし、勝負だ」 虹輝は袖が濡れないようにまくり上げた。 そっとポイを水の中へと入れ出目金へと近づく。こういうのは水の抵抗を減らすため横に移動したほうがいいとテレビでやっていた。虹輝はそろりと出目金の下へとポイを入れ、ふちに引っ掛けるように出目金を掬った。 「やった、って、えぇっ!」 「あはは、残念だったね、虹輝」 出目金が思いのほか元気だったこととその身体が重かったことが敗因かもしれない。ポイは盛大に破けてその間から出目金はするりと逃げていった。 「ありゃー兄ちゃん、そいつはいけねぇよ、出目金ってのは一番難しーのよ」 店主はからからと笑って虹輝から敗れたポイを引き取る。 「それ早く言ってほしかった……」 「ははっ、じゃあイケメンの兄ちゃんにはサービスだ、その白に赤はすばしっこくて難しいぜ」 「ほら、俺が言った通りじゃん」 虹輝は店主の言葉を受けてそう言う。 「難しいからこそやる意味があるんだろ」 「はは、イケメン兄ちゃんは中身までも粋だねぇ」 江戸っ子なのか、店主は楽しそうに慈雨を讃える。
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