夏色デート

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「これ掬えたら虹輝にプレゼントするよ」 「聞いたぞ。せいぜい俺のために頑張れ」 虹輝はムッとしながら膝に肘を載せて頬杖をつくようにしながら慈雨をじろりと見た。 「虹輝のために頑張るよ」 虹輝の嫌味などお構いなしで、慈雨はかえって嬉しそうにそう言うと真剣な顔で金魚を見つめた。それにドキリとする。真剣な横顔もかっこいいのだから言葉が出ない。 一つ息を吐くと、慈雨はスッと水の抵抗が少ない角度で白と赤の金魚の横にポイを入れるとサッと手首を返す。金魚が躍り、銀色の入れ物に見事納められた。 「わ!すごい!」 「やった!」 「見事なもんだな、兄ちゃん」 いつの間にか周りも固唾を呑んで見守っていたらしい。パチパチと拍手が湧き起こる。 「虹輝の為に頑張ったよ」 珍しく高揚したようにそう言って虹輝に向かって全開の笑顔とピースサインをよこすのにドキリとする。 有言実行のうえ、虹輝のためと言われてときめかないわけがない。それでなくとも好きなのだから。 「やば、顔がいい」 虹輝の隣にいた女性が思わずといったように呟いて、慈雨にぽうっと見とれたのが分かった。顔を上げれば向かいの女性たちも慈雨に夢中だ。 それにほんの少し心がささくれ立つ。 「虹輝、次はどれにする?」 「……出目金」 「出目金は難しいって言われただろ」 そう言いながらも楽しそうに虹輝のことを見つめる。これだけ色々な女性が慈雨のことを見ているというのにその視線がないかの如く慈雨は虹輝しか見ていない。 そんな事実に尖った心がじわじわと溶けていく。たったこれだけで気分が良くなるのだから恋は魔法だ。 「じゃあ慈雨が欲しいやつ」 「うーん……じゃあ…これかな」 そう言うと慈雨は虹輝が欲しがった黒の出目金に照準を当てた。
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