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「おはよ、虹輝」
「おはよう」
中学からの友人、松前優斗が後ろから声をかけてきて虹輝は挨拶を返した。昇降口に入り、お役御免となってホッと一息ついたところだった。
「爽やか王子と相合傘、お疲れさま」
「……見てたのか」
「まぁねー、俺、真後ろにいたんだよ」
「声をかけろよ」
「かけるわけないだろ、あんな女子のバトルに巻き込まれて流れ弾に当たるようなこと」
「朝から雨だし、散々だった」
どうやら最初から見ていたらしい。
出たよ雨男、とチャチャを入れて優斗は笑った。
「でもまぁその割には成宮と楽しそうに話してたよな」
「別に楽しい話題をしていたわけじゃない」
ふたりで同じ傘に入って気まずくならないように慈雨がなんだかんだと話題を振ってくれていただけだ。それだけなのに疲れてしまった虹輝をねぎらってほしい。
「ま、でも、虹輝には感謝してるんじゃないか?」
「どうだか」
傘の水滴を切って傘立てに入れる。
「してるだろ、女同士の喧嘩なんて面倒なだけだし。それに成宮の肩、めちゃくちゃ濡れてるのにお前は少しも濡れてないよな。わざわざ車道側に回ってさ、だいぶ気を遣ってくれてるだろ、さすが王子」
「え……」
女子二人に囲まれながら歩いて行く慈雨の後姿を見つめれば、その肩が濡れているようにも見えた。それに確かにわざわざクロスするように車道側に来たなと思い出す。王子が王子と呼ばれる由縁なのだろう。
「虹輝もさ、もうちょっと愛想よくすればあっという間にあの仲間入りなのにな」
「なんだ、それ」
上履きに履き替えながら怪訝な顔をする。
「だってお前、よーく見れば綺麗な顔してるんだから成宮の半分でも愛想があったらもっとモテるだろーよ。中学の頃も可愛いって言われてただろ」
「うるさい。よく見ればで悪かったな! あと、可愛いって言うな」
愛想がないのは昔からだ。中学に入った頃は今よりももっと小柄で女子に間違われていた黒歴史を持ち出して笑う優斗の足を蹴る。
痛がる親友を放って歩き出しながら、慈雨の後姿を眺める。
やはり虹輝の違和感が間違いで、王子は噂通りの男なのだろうか。
じっと見つめても答えは出ずに、虹輝は窓越しに止みそうもない雨を見上げて本日何度目かの溜息をついた。
雨は嫌いだ。
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