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患部と鼻緒をできるだけこすり合わせないようにそろりと足を進めて脇道のガードレールに腰かける。花火の見えない脇道のせいか人通りも緩やかだ。
「虹輝、ちょっと待ってて。絆創膏買ってくる」
「悪い、助かる」
慈雨はすまなそうな虹輝の謝罪に笑って大通りのドラッグストアへと向かった。
花火は見えず大きな音が響く場所で虹輝はひとり手持ち無沙汰に金魚の入った袋を目の前に掲げた。ビルに映る色とりどりの花火が金魚の泳ぐ水面を彩る。
りんご飴と金魚、着心地のいい浴衣を着て好きな人と花火大会。充実した夏の思い出だと小さく微笑む。
「佐藤くん?」
驚いたような声をかけられ、虹輝は顔を上げた。
そんな声をかけられるのは本日二度目。地元なのだから知り合いに会う確率は高いだろうが、これほどの人込みではやはり珍しい。
「三浦」
虹輝と慈雨のクラスメイトの三浦沙織だった。隣にいる女子も同じクラスでもう一人も顔は見たことがあるから同じ高校の同級生だろう。
「やっぱり佐藤くんだ。わ……こんなところで会えるなんて……そっか、佐藤くん地元だもんね」
沙織が嬉しそうに顔を赤らめる。
「びっくりした。三浦も花火大会来てたんだな」
「うん、なんか今日の佐藤くん、その、雰囲気がいつもと違うから別人かと思った。浴衣、似合ってるね」
「すごく雰囲気あるお洒落な人いるなぁって思って魅入っちゃったら佐藤くんで驚いたよー」
沙織の隣、同じクラスの確か名前は山川亜衣だったか、そんなことを言うのに赤くなる。
「いや、これは……その、知り合いに色々やってもらって」
もごもごと言い訳をしながら洒落た髪型に気恥しくなる。
「そうなんだ、すごく素敵だね」
「……ありがとう、三浦たちも似合ってるしすごく大人っぽい」
それぞれ花柄の浴衣を着て、髪もきれいに整えられている。うっすらと化粧もしているようだ。
「そ、そんなこと、えっと、ありがとう。佐藤くんに言われると嬉しい」
沙織は真っ赤になって頬を抑える。よかったねとひそひそと亜衣に言われ更に沙織は赤くなった。
「……佐藤くんはひとりってわけじゃないよね?」
「うん、今……」
「なに口説かれてるの」
「ひゃっ!?」
急に耳元で囁かれ、軽くガードレールに腰かけていた虹輝はバランスを崩す。それを支えるように背後からの腕が虹輝の腹へと回った。
「成宮くん?」
びっくりしたように沙織の目が丸くなる。
虹輝は後ろから抱きかかえられるような状態で慈雨を振り返った。驚くほど顔が近くにあって心臓が飛び上がる。
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