すれ違う想い

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「っ……驚かすなよ!」 「あはは、ごめん、虹輝が女の子に囲まれてるって驚いちゃって」 「どうせ俺はお前みたいに年中囲まれないよ」 「そういう意味じゃなんだけどね」 慈雨の意味の分からない言葉に眉を寄せて離せとその胸を手の甲で叩く。ずっとこのままなど心臓に悪い。慈雨は虹輝を離すとガードレールに片手をおいて、それを軸に身体ごとひょいと飛び越えた。浴衣姿なのに着崩れることなくなんてことなくこなす運動神経がうらやましい。 案の定、沙織の友人も上気したような顔で慈雨を見つめた。慈雨はそれに気づいているのかいないのか、見知った二人に笑顔を向ける。 「こんばんは、三浦さん、山川さん」 「こんばんは。そっか、成宮くんと二人だったんだね」 どこか安堵したように沙織が言うのに頷く。 「最初は弟たちもいたんだ。まだ小さいから早めに帰して二人で遊んでた」 「そっか、成宮くんの妹さん見たかったな」 美少女なんだって、と沙織は亜衣たちに言っている。そんな女子たちを尻目に慈雨は虹輝の前に跪いた。 「虹輝、足出して」 「いいよ、自分で…」 「無理でしょ、ほら」 ぴっちりと着付けられた浴衣のせいで足が上がらないのをわかっているのか、慈雨は虹輝の足を取ると草履を脱がして買ってきたペットボトルの水で足を洗い流してくれる。沁みるのにぴくりと足を動かせば慈雨がくすりと笑った。そうして丁寧にタオルで水気を拭っていく。 「わ、佐藤くん、擦れちゃったの? 痛そう……」 「慣れないもの履いたから……成宮、ありがとう」 「うん、後は絆創膏貼るから少し我慢して」 タオルで傷口をそっと抑えられ、血が付くのに眉を寄せる。そして慈雨は虹輝の足を自分の膝の上に乗せた。 「っ……汚いから」 「今洗ったから平気。じっとしてて」 慈雨は丁寧に鼻緒の当たるところに絆創膏を貼っていく。 まるでシンデレラに靴を履かせる王子のようだ。 その姿にじわじわと赤くなれば、女子三人もあてられたかのようにその姿を見つめた。 「はい、終わり。立てる?」 丁寧に草履まではかせてくれた慈雨は虹輝の手を取る。どこまでもスマートだと思いながら虹輝はありがたくその手につかまって立ちあがった。 「うん、だいぶ楽。ありがとう」
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