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「よかったね、佐藤くん。あ!ねぇ、よかったらこの後一緒に花火を見ない?」
亜衣がいいことを思いついたとばかり手を合わせる。
「あ、えっと……」
ちょうど帰ろうとしていたところだと言おうとした時、慈雨の背中が虹輝を隠すように振り返った。
「お誘いは嬉しいけど、俺たちもう帰るところだったんだ」
「えぇっ、そうなの?」
名前を知らない女子が残念そうな声を上げる。
「虹輝の足も心配だし、ごめんね」
きっぱりと断る慈雨にほっとする。
「ごめん、三浦、山川、また今度」
虹輝も慈雨の横から顔を出してそう謝る。
「そっか、残念」
「佐藤くん、足痛いのに誘ってごめんね、お大事に」
残念そうな亜衣をフォローするように沙織は慌ててそう言って気を使ってくれる。
「花火最後まで楽しんで。みんな今日はいつも以上に可愛くしてるから変な人に声かけられても無視するようにね」
「わあ、ありがとう!やだ、成宮くんに可愛いって言われちゃった、嬉しいね」
亜衣は思ったことを素直に言うタイプなのか喜んでいる。
「あはは、普段とは違う可愛い姿を見られて得したよ」
慈雨のリップサービスにやだーと亜衣ともう一人はわかりやすく喜んだ。
「佐藤くんも沙織の浴衣姿いいと思ってるでしょ? 可愛いよねー」
亜衣は沙織の背を押して虹輝の前に押し出す。
「えっ、やだ、一般論で聞いてるんだよ!?浴衣、いいよね!」
沙織は真っ赤になって慌てたようにそう言った。
一般論として浴衣をどう思うかと聞かれれば、とふと考える。慈雨が虹輝を黙って見つめているのに虹輝はきゅっと唇を結んだ。
「そうだな、普段とは違う感じで……確かにいいよね」
見惚れるほどに浴衣姿の慈雨はかっこいい、と虹輝は少し頬を染めた。それからすぐに何を考えているのだと我に返り更に赤くなった虹輝に何故か沙織も赤くなる。
「……じゃあそろそろ帰ろうか、虹輝」
ぐいっと強い力で腕を引っ張られ、力の入った足がずきりと痛む。
一瞬眉を寄せるも、慈雨の有無を言わさない力強い腕に慌てて頷いた。
「また新学期!」
虹輝は振り返りもしない慈雨の代わりに笑顔を見せる。少し驚いたような三人を残して、虹輝は痛む足をだまして慈雨に続いた。
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