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「成宮、……どうしたんだよ」
黙ったまま、虹輝の手を放さず歩く慈雨の背中はどこか不機嫌なオーラを醸している。
ずっと黙ったまま歩く慈雨に虹輝はため息をつきながらもそれに従った。
「……痛っ……」
家が近づくにつれ、足の痛みがひどくなる。慈雨についていくのに精いっぱいの虹輝は躓いて思わずそう声を上げた。
「! っごめん!」
慈雨はハッと思い出したように足を緩めた。振り返り心配そうに虹輝の足を見下ろす。
「……大丈夫?」
「ああ」
「ごめん……」
足はじくじくと痛むが、絆創膏を貼ったおかげで歩けないほどではない。虹輝は改めて慈雨を見上げた。
手を緩く繋いだままの慈雨が項垂れるのに通り過ぎる周りの人々の目が痛い。
「……こっち」
ちょうど神社の前だったため、虹輝は鳥居をくぐり階段を上った先の境内に慈雨を促した。
ここを抜け反対側の参道へ向かえば慈雨の家がある閑静な住宅街に入るので人の気配はない。静まり返った境内は神聖でありながら夜のためどこか薄気味悪い雰囲気だ。大きな木々に囲まれたそこは花火の音はするものの、虫の声も聞こえてきた。
「慈雨」
繋いでいた手を離して正面から顔を覗く。黙ったままの慈雨が心配になって名を呼べば、思いつめたように顔を上げた。
「虹輝ってさ、三浦のこと好きなわけじゃないよね?」
「? どうしてそうなるんだよ」
沙織とはたまに話をするだけのクラスメイトだ。クラスのSNSくらいでしか繋がっていないし、一緒に遊んだことすらない。
いきなりどうしてそんなことを聞くのか。そう不思議になってから虹輝はハッとした。
亜衣がしきりに沙織と虹輝を引き合わせていたのを気にしているのか。不機嫌になったのはそういった理由なのだろうか。
ひどく動揺して虹輝は聞いた。
「お前……もしかして三浦のこと好きなのか?」
「……は?」
虹輝の言葉に慈雨が振り返った。その表情にぎくりと身体が強張る。
「何言ってんの?」
まるで2、3度温度が下がったようだ。
「いや、だって……俺と三浦が話してるのが気に入らなかったのかなって……」
虹輝の言葉に慈雨ははーっと大きくため息をついた。
「三浦のことなんかどうも思ってないよ。まず接点がない」
「まあ、そうだな……」
虹輝の隣の席だから知ってはいるものの、沙織も慈雨に特別話しかけるということもないし、その逆もしかりだ。沙織はクラスでも話しやすいタイプであるし、誰かを色眼鏡で見ることもない。そんな沙織を「三浦なんか」と言うあたり、女子にうんざりしている慈雨とはいえ言いすぎだ。
これでは「好き」以前の問題。
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