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成宮兄妹
「ただいま」
「こら、店からじゃなくて玄関から入りなさい」
「はいはい、次はそうする」
怒る母親を軽くあしらって店の奥へと向かう。包装材やリボンなどを閉まっている棚の向こうに隠された居住区への入り口なのだからいいではないか。そんなことを思いながら靴を脱ごうとしてピンク色の可愛らしい靴があることに気づいた。
濡れた傘を傘立てに差し、廊下に上がって居間に入れば陽太が虹輝に気づく。
「兄ちゃん、おかえり」
「ただいま。……友達か?」
ミルクティー色のウェーブのかかった長い髪の女の子が座っていた。
思わず目を奪われるほどに可愛い。まるで西洋人形のように整った美少女がその大きな瞳で虹輝を見つめた。
「こんにちは!」
笑うと血が通って更に可愛い。
「あ、ああ、こんにちは」
「杏奈。同じクラスなんだ」
どこか得意げに言う陽太に頷く。
「へぇ、そっか。……ってお前、お茶くらい出せよ」
手伝えと促してキッチンへと向かう。大人しくついて来る陽太を冷蔵庫を開けながら小突くとひそめた声で尋ねる。
「なんだよ、好きな子か?」
「バッ……そ、そんなんじゃねーし!」
陽太は小学3年生になったばかりだ。今時の小学生はませているしほんの少し揶揄うつもりだったのだが、どうやら図星のようで真っ赤に染まった。
「ふぅん?」
ニヤニヤしながらコップに麦茶を注ぐ。ちげーし、とムキになって言う陽太にコップをつき出す。
「ほら、もってけ」
「違うからな!」
「はいはい、分かったよ」
「分かったんならいい!」
我が弟ながら可愛いとニヤニヤしてしまえばむくれた顔でもういいと言って歩き出した。
「おやつ持ってってやるからその間に宿題やっとけよ」
「わ、さんきゅー! 杏奈、続きやろう」
「うん」
単純でよかったと苦笑いしながら、二人がノートへ向かうのを微笑ましく確認し、虹輝はキッチンに戻った。
そうして菓子が入っている棚を覗いて残りが少ないことに気づく。
「母さん、買い忘れたな」
小分けの袋菓子が二、三個あるだけ、しかも種類がバラバラで陽太だけならば問題ないが、杏奈もいるとなるとこれではだめだろう。
虹輝は別の棚を開けた。
ホットケーキミックスがあるから焼くかドーナッツかと考え、杏奈もいるのでドーナッツへと決める。
玉子と牛乳を取り出し、手早く混ぜるとドーナッツ型で形を作る。その間にフライパンに油を注いで温度を上げておく。適温になった合図があれば後は揚げるだけだ。
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