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神社の鳥居の手前、慈雨の姿を見つけた。
それに心臓がどくどくと騒がしくなる。ちゃんと伝えられるだろうかと不安が押し寄せて胸がきゅうと痛くなる。
「お兄ちゃん!」
杏奈が駆け出して慈雨がそれに気づくと同時、虹輝にも気づいた。
虹輝の好きな不思議な色の目が虹輝を捉えて丸くなる。
「虹輝、どうして……」
「お兄ちゃん、ごめんね。本当は虹輝くんに会いに行ってたの」
「え?」
杏奈の言葉に慈雨は戸惑ったように杏奈と虹輝を交互に見つめた。
「……ここに迎えに来てくれって呼び出してほしいって言ったのは俺だよ。ごめん」
「虹輝まで……」
「杏奈が仲直りしてって言ったんだよ」
杏奈の言葉に慈雨は驚いたように口を開く。
「仲直りって俺たちは別に……」
「ううん、ちゃんと話して。お兄ちゃんずっとおかしかったよ。それって虹輝くんと喧嘩しちゃったからでしょ?」
「……杏奈ちゃん、俺たちのこと心配だったんだ」
杏奈と虹輝の言葉に慈雨が唇を引き結ぶと、しゃがむ。杏奈と同じ目線になって、慈雨はその頭を撫でた。
「……そっか、心配かけてごめん」
「ううん、杏奈はまた虹輝くんと仲良くしてくれればそれでいいよ。虹輝くん、送ってくれてありがとう! お兄ちゃん、虹輝くんのことおうちまでちゃんと送ってあげてね!」
「え、ちょっと、杏奈!?」
「おうちまですぐだもん、一人で平気!」
虹輝の手からソラのキャリーバッグを取ると杏奈はすぐに走り出した。
「杏奈!」
あ然としていればあっという間に角を曲がっていく。杏奈はおっとりしているようで意外とアクティブで大胆なのだと気づかされる。
そうしてそれに後押しされるよう、虹輝は勢いのまま潔く慈雨に頭を下げた。
「慈雨、この前は本当にごめん」
「虹輝!? ちょっと、こんなとこで」
ちらほらと歩いている人もいる中、戸惑っている慈雨を見上げた。暑さのせいかはたまた緊張のせいか、握った拳の内側は汗でびっしょりだ。
「……話がしたい」
まっすぐに慈雨を見つめてそう言う。慈雨はその瞳を揺らして、小さく頷いた。
そうしてふたりはあの日喧嘩別れになった神社の境内へと階段を上った。
煩いくらいの蝉時雨だが大きな木々に囲まれたそこは少し涼しい。蝉の声以外は聞こえない、人の姿もない境内で虹輝は慈雨と向かい合った。
「この前はちゃんと話を聞かないで悪かった。それから、慈雨の気持ちを軽いものだなんて言ったこと本当にごめん。すごく反省してる」
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