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虹輝はまた慈雨に頭を下げる。慈雨は首を緩やかに横に降った。
「いや、虹輝が謝ることないよ。俺も挨拶みたいに好きだって言ってたのは本当だから。……きっと俺は怖かったんだと思う」
「慈雨?」
「虹輝が俺の気持ちを重いって考えること、同じ同性から好意を寄せられること、気持ち悪いって思われたらどうしようって」
「そんなこと……」
そう言いつつも実際虹輝も同じようなことを考えていた。
自分の気持ちがばれたら友人ではいられなくなる。そばにすらいられなくなる。
だからこそこの想いをいつかは消さなくてはならないものとし、慈雨が自分と同じ想いなわけがないと思い込んでいた。
「俺は慈雨が俺のこと好きだなんて思いもしなかったんだ。俺は別に可愛くないし愛想もない。お前みたいに気の効いたことも言えない。女の子みたいに、その、柔らかくもないだろうし、」
「そんなことない。虹輝、自分で思っている以上にかっこいいし綺麗だし、料理もうまくて何より優しい。虹輝は気づかなくても虹輝のこと好きな人はたくさんいるよ。だから自分に魅力がないみたいなそんな謙遜しないで。それに、女の子と比べるつもりなんてないんだ。俺はね、性別なんて関係なく虹輝がいいんだから」
慈雨の言葉が優しく響く。
「でも、俺はあんなにひどいこと言った」
「今なら分かるんだ。俺も虹輝もなんかかたくなな状態だったんだと思う。だからもう俺の好きな人を悪く言わないで」
虹輝か虹輝のことを卑下しないで欲しい、そんな慈雨の気持ちが嬉しかった。素直に好きだと言われることが嬉しかった。
だから虹輝も素直に伝えたい。
「好きだって言われて、嬉しかったよ」
まっすぐにその瞳を見つめて伝える虹輝に慈雨が一瞬泣きそうに歪む。そうして蕩けるように笑った。
「何度も何度も、虹輝が伝えてくれた言葉や優しさは俺に積もって俺の自信に繋がったよ。俺が俺でいていいって、俺の思うがままでいいってそう言ってくれるのが本当に嬉しかった。俺の嫌なとこも情けないとこも全部知っても変わらず俺のそばにいてくれる。俺自身を見てくれる。俺はそんな虹輝が大好きだよ。……ちゃんと、こういう好きなんだ」
慈雨は虹輝を驚かせないようにそろりと頬に触れ、ゆっくりと唇の横に唇を寄せ、ギリギリのラインに軽くキスをする。そうして慈雨の親指がそっと虹輝の唇を撫でた。
「ここにキスすること、許してくれる?」
唇が触れてしまいそうな距離で囁かれ、虹輝はふっと息を飲みながらも視線を上げて慈雨を見つめた。
どこか不安な色を残したその瞳に映る自分を見つける。
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