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「……嬉しい、俺も大好きだよ」
「うん。本当にごめん。……さっきのもお前を責めるつもりなんてなかったんだけど……」
こういう思ったことをすぐにはっきりと言ってしまうところが虹輝の残念な要素なのだろう。
「その、つい小言っぽくなって……悪かった」
「ふふ、虹輝ってお母さんみたいなとこあるよね」
自分でも思っていただけに言い返せないが慈雨には言われたくない。虹輝は慈雨の母になりたいわけではない。
「お前は母親にこういうことすんのかよ」
虹輝は背伸びをするともう一度慈雨の唇に軽くキスをする。
「……しないよ」
慈雨は柔らかく笑って、砂糖菓子のように甘い声でそう答えると虹輝の唇を奪う。
「虹輝だからしたい」
「ん……」
少し背伸びした虹輝の腰に腕を回してぐっと距離を縮め、慈雨は虹輝を抱き締めた。
夏の終わりを惜しむように蝉が啼く。じっとりとかいた汗が気持ち悪いのに、離れたくない。熱に浮かされそうだ。
幾度も唇が触れ合い、求めるように熱い舌が入り込む。ぬるりと上顎を舐められ、感じたことのないざわざわとした感覚にびくりとすれば逃げないようにと慈雨の腕が更に虹輝を抱き込む。
器用に虹輝の口内を蹂躙し、舌を嬲るように吸い上げられる。蝉の声に紛れ、ぴちゃりと艶かしい音をたてて深い口づけは繰り返され、飲み込めない唾液が唇の端から溢れ虹輝の顎を伝った。
慣れないキスに息をつくこともままならない。
その上、がっしりと腰に回された腕が強くて離してはもらえない。キスがしやすいようにうなじに回った掌が顔を上に向かせるようグッと支え、虹輝は逃げ場がなく慌てた。
「ッぁ、慈、……まっ…」
それをあやすように、指でうなじを撫でられぞくぞくとするものが背筋を上る。
「んッ……っふ…」
身体に重だるいような熱が籠って、これはまずいと頭の中に危険信号が点滅した時だった。
上を向かされた額にぽつりと冷たいものが落ちてくる。ポツポツと辺りの木々の葉を軽快に鳴らすのは突然の雨。
「……雨?」
慈雨もそれに気づいたのか、ようやく唇を離して空を見上げた。
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