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「慈雨は雨の名前とか詳しいよな」
「一応俺の名前にも入ってるからね。前に虹輝も言ってくれた通り、慈雨って乾いた大地に降る恵みの雨のことだろ。小学校の頃、自分の名前の由来って調べなかった?」
「ああ、そう言えばそういう授業あったよな」
「うん。それのために母さんに聞いたんだよね。そうしたらそういう意味だっていうのと、誰かと誰かの関係を潤すようなそういう存在であってほしいと思ったの、って言われたんだ」
「……」
懐かしむようにそう言うのに慈雨の母の願いに想いを馳せる。
もしかしたら、断絶してしまった慈雨の父と祖父の懸け橋になればと思って付けたのかもしれない。もしかしたら慈雨もそれに気づいているのかもしれない。
だからこそ、慈雨は祖父の横暴な態度をも素直に受け入れているのではないだろうかとふと思った。
「まあ、そんなところからね、気象に興味持ってた時期があったんだ。気象予報士とかいいなぁって」
「へぇ、だったらそういう道だっていいんじゃないのか?」
「そうだね、一時的に考えてただけだけど、前に虹輝に言われてから自分の将来についてはいろいろ考えてるよ」
「そっか」
初めて聞く将来への希望によかったと虹輝は微笑んだ。
「虹輝の名前はどうして付けられたの?」
慈雨の将来の話はおしまいだというように照れた顔をして慈雨は問う。
「俺は生まれた時に虹が出てたから、っていう単純なヤツ。生まれた時から雨男なんだよなぁ」
「あはは、そうだったんだ」
楽しそうに慈雨が笑う。
初めて会った歩道橋の上、慈雨がもう一度虹輝の指にその指を絡ませる。人に見えない短い距離だけ繋ぐ幸せ。
「お祭りの時の金魚は元気?」
「あ…ごめん、せっかく慈雨がとってくれたのに出目金は次の日には死んじゃったんだ。白と赤は元気だよ」
「そっか……虹輝が欲しがってたから残念ではあるけど、ああいう屋台の金魚は弱いって聞くからね。また来年取ってあげる」
「え?」
「来年も、その次も一緒に行くでしょ?」
未来を語って慈雨が微笑む。
「……うん」
この上なく幸せな気分で虹輝は微笑んだ。
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