君はとくべつ

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君はとくべつ

「おはよう」 「慈雨? なんで……」 夏休み明け初日、店の入り口から出た虹輝を待っていたのは慈雨だった。 8月下旬、暑さはまだまだ収まる気配がない。朝からじっとりと汗をかきそうな太陽の下、慈雨は爽やかに笑った。アイスカラーに白襟の涼しげな制服がよく似合っている。 「虹輝に早く会いたかったから」 さらりと言うのにこちらが恥ずかしくなる。 陽太や杏奈の新学期はまだ始まっていない。それにもかかわらず虹輝を迎えに来てくれたのだ。 「あら、慈雨くん、おはよう。久しぶりね」 「おはようございます。お久しぶりです。これ、祖母から皆さんにお土産です」 「まあ、わざわざありがとう」 品出しをしに外へと出てきた母へと高そうな菓子の袋を渡している。虹輝に早く会いたかったからなどと言ったが、これのためかとほんの少し残念がる自分に人知れず赤くなる。 「先日まで軽井沢の方へ祖母や叔母としばらく行っていたんです」 「聞いたわ、別荘があるなんてさすがねぇ」 「来年は虹輝と一緒に行きたいなぁって思ってるんですけどいいでしょうか」 「お邪魔じゃないならもちろんよ。あ、うちもね、横須賀のおばあちゃん宅に虹輝と陽太が行っていたから帰りにでもまた寄ってちょうだい」 「ありがとうございます。……じゃあ虹輝、行こうか」 さらりと虹輝との旅行の許可を取り付けたと驚愕している虹輝ににこりと微笑む。それに気後れしながらも頷いた。 「う、うん、行ってきます」 「いってらっしゃい、気をつけてね」 虹輝の隣、慈雨も行ってきますと答えて歩き出す。 「来年はふたりで行こうね」 「お前、ほんと抜け目ないな」 店から離れ二人きりになった途端、慈雨が言うのに思わず呆れる。 「なんのこと?」 絶対確信犯の癖にと睨めば慈雨は楽しそうに笑う。 「それにしても会えなかった一週間長かったね」 「っ……」 驚いて顔を上げれば慈雨は目を細めた。 想いが通じ合った日から一週間、まさかのすれ違いで一度も会えなかったのだ。
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