君はとくべつ

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『おばあちゃんが虹輝にも会いたいって言うから陽太を迎えに横須賀に行って少し泊まってきてよ。慈雨くんも忙しいならどうせ暇でしょ』 母にそう言われたのはあの日の夜だ。新学期まで予定はないと言ってしまった手前、今更慈雨と会う予定でいるなどと言えなくなった。 そうして横須賀へ向かって2泊したところで元から軽井沢へ行く予定のあった慈雨とすれ違いになったのだ。 今日は想いが通じ合ってから初めて会うことができた日だった。 「虹輝はさみしくなかった?」 「……どうだろう」 どう答えるのが正解かわからないのと気恥ずかしさで虹輝は俯きがちでそう言う。 あの日のキスが甦ってじわじわと恥ずかしくなってくる。最初の喧嘩腰のキスはノーカウントにして初めてのキスだったのにあんなところで何度も繰り返した事実が今更ながらに虹輝の羞恥心を煽った。 「えー、俺はさみしくて会いたかったからこうやって来ちゃったんだけど」 「お土産持ってきただけだろ」 「お土産はついでだろ。電話とかメッセージのやり取りはしてたけど、やっぱり実際に会えるのは嬉しいでしょ」 「まぁ、それは……うん」 そう思ってくれていることが嬉しいことと確かにその通りなので虹輝は小さく頷く。 「横須賀、楽しかった?」 「うん、久しぶりに会ったばあちゃんたちも元気にやってたし、横須賀バーガーは美味しかった」 「虹輝が写真送ってくれたやつだね、確かにあれは美味しそうだった。俺もいつか食べに行きたいなぁ」 「そんな遠いわけじゃないし、そのうち行こうか」 「そうだね、日帰りできるし。あ、でも来年の夏は一緒に軽井沢だからね」 「受験生だけどな」 「2、3日はいいだろ、あ、そうだ、避暑地で勉強するって言って一週間くらい行こうよ」 「えー……」 こうやって未来の約束を重ねられるのは嬉しい。 付き合い始めたとはいえ、いつもと変わらないような会話は弾んでいく。 付き合うとはどういうものなのか、恋愛初心者の虹輝にはよくわからなくてこの一週間頭の片隅にチラチラと入ってくる恋愛ものの映画のCMやドラマなどに気を散らしていた。 だからこそ変わらないそれに虹輝は少しばかりホッとしたのだった。
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