君はとくべつ

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「でも今は王子といるから色々声かけられるんじゃないの?」 「あぁ、慈雨狙いなんだろうなぁとか思うけど、確かに声かけられる率は上がったかも」 「とうとう虹輝もあっちの世界の仲間入りか」 「どっちの世界だよ」 溜息をつく優斗にツッコむとペットボトルのお茶を飲む。 「いやはや俺の知らないうちに色々大人っぽくなっちゃってさ。……もしかしてひと夏の経験とかしちゃった?」 「っ……!」 優斗の言葉にお茶が変なところに入って噎せる。 「な、に、言って!」 ごほごほとしながら涙目で優斗を睨む。 慈雨とのキスが思い出されて、虹輝は盛大に赤くなった。 「うぇえその反応怪しい、ヤったの? 俺の知ってる女子?」 「はぁっ⁉ ヤっ……って……そんなわけないだろ!」 「だよなぁ、虹輝だもんな、彼女できても手繋ぐくらいだよなぁ」 「そもそも彼女とかできてないし!」 「えー? それは信用できない、なんか虹輝色気出てきたもん、そういうのって色恋沙汰じゃないと出ないだろ」 妙なところで勘が鋭くて困る。 「勝手に妄想すんのはいいけど、彼女はいないからな」 そう、彼女はいない。虹輝が付き合っている相手は慈雨なのだから。 これ以上ボロが出ないうちにと虹輝は立ち上がった。 「夕飯の支度しなきゃだしそろそろ帰る」 「あ、待てって、これ、陽太に持ってけよ」 優斗はそう言ってもう一つ残っていたマスカットサンドを差し出した。 「……ありがとう」 「ま、彼女がいないってのは一応信用するけど、王子ばっかりじゃなくて俺ともたまには遊べよな」 「うん、連絡する」 外に出た虹輝を見送るようにショーケースに頬杖をついて手を振る優斗に虹輝も手を振り返した。 アーケードのかかったメインの通りを虹輝の家の方に曲がる。先には夕焼けの中聳え立つ成宮総合病院が見えた。風向きのせいか、曲がった途端に少し涼しい風が虹輝の頬を撫で、夏の気配はすっかりなりを潜め、慈雨と付き合い始めてもう一か月以上が過ぎたのだと感慨深くなる。 慈雨は今頃何をしているだろうか、そんなことを考えた時だった。ポケットの中のスマホが震えて取り出せば慈雨からのメッセージが入っていた。 何気ない日常に慈雨がいることが当たり前になっている。 それを実感して虹輝は小さく微笑んだ。
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