見えぬ夏に、会いに行く

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 廊下には、時を刻む針の音だけが、規則正しく響き渡っている。そのほかに動きのない校内は、異様な光景だった。夜だからか――と考えかけて、僕は気がついた。 「ただの建物だな」そうして、ふと言った。「なんのために、こんな建物あるんだろう」  吉岡さんは、何も言わなかった。  教室に入る。整然と並べられた机たちは、月明かりにぼんやり照らされている。 「二宮くん、どこに座っていたか、覚えてる?」  今度は僕の方が黙った。 「あそこ、」と彼女が指を差す。窓際の後ろから二番目。座っていたのはもう随分前のことなのに、当たっている。 「隣、私だったんだよ? だから覚えてるんだ」  僕の胸の内を見破るように、彼女は笑って言った。 「座って!」とまた手を引かれ、僕はかつての席に座らされた。  吉岡さんもまた、僕の隣に座ると、持って来ていたスクールバッグを漁り始めた。 「お弁当、作ってきたの」  そこから顔を出したのは、二つの弁当箱だった。 「こんなことも、できなかったね」  お弁当の蓋を開いた吉岡さんは、初めてそんなことを呟いた。  僕は、窓の外を見やった。僕らが水遊びした跡はもう、校庭から消えていた。
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