見えぬ夏に、会いに行く

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「ね、学校へ行かない?」  頃合いを見計らったように、けれども唐突に、彼女――吉岡さんは言った。  僕は吉岡さんをよく知っていた。彼女は僕のクラスの学級委員長だ。クラスをまとめ上げ、充実した学校生活を送らせようと奮闘する、それはそれは素敵な心がけをお持ちの人だ。 「行かないよ」僕は間髪入れずに答えた。「第一、行けないだろ」  未曽有の感染症によって、僕らの学校生活はないようなものだった。友人たちとの交流も、全てを捧げるはずだった行事も、なんにもなくなった。画面の向こうで繰り広げられる授業さえ、なんの意味もないように思えた。 「もう良いんだよ」  ところが吉岡さんは、そんならしからぬことを言った。 「だからって、こんな窮屈なところで過ごすのは、違うんじゃない?」  と彼女は笑った。普段教室で見せるものとは違う、悪戯っぽい微笑みだった。 「……嫌だよ、うつったら、怖いもん」  僕が弱気に呟くと、彼女はその顔を、まるで子供をあやすような表情に変えた。そして、僕の手を強く引いた。 「大丈夫だよ! もう誰もいないから!」 「え?」 「今から行けばいいじゃん!」  言われるがまま、手を引かれるがまま、気が付くと僕は、夜の帳の降り始めた町を、彼女と駆けていた。
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