恋と呼びたいだけだった。

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油井 克巳という男は、不思議な男である。 女性二人分ほどにある肩幅にスーツの上からでもわかる筋骨隆々な背中、身長175センチの俺でも見上げるほどのそれに正直、ビビったのは否めない。 それがあいつとの初対面、必死で勝ち取った中学教職の初日の出来事だった。 職員が壁となりぐるりと狭い職員室を囲む、その中にいた一際デカい奴が克巳だ。 なんでこいつの隣に立ってんだ、俺。 目立ちたくない、なるべくなら中立に穏便に、学生時代から培ってきたセオリーが崩れる音がしたのを今もよく覚えているし、実際そうなったのだ。 何故ならその馬鹿でかい男が左隣、つまり俺がいた方向に身体をゆっくりと倒してきたのだから。 目が覚めると見慣れない白い天井が目に映った。同時に嗅ぎ慣れない消毒液の匂いが鼻を満たす。 「ご、ごめんなさい!俺、あの、極度の緊張から貧血になっていたらしくて、」 やたらと掠れた声の方、そこにいる人物を認識した瞬間、俺は痛む身体を無視して盛大に叫んでいた。 そこにいるのはたしかにあの馬鹿でかい身体だ、なのに顔が頭が小さいのだ! そいつを見た瞬間、俺はロシア土産だと母からもらったマトリョーシカを思い出していた。
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