恋と呼びたいだけだった。

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「おい!お前なぁ、いい加減にしろって!」 「え、え?俺ですよね、あ、あれですか?治療費とかそういう類のことでしたらご心配なさらなくても、」 「あぁーもうッ!だから、そういうことじゃなくて!」 噛み合わない、恐ろしく噛み合わない。どうしてこんなにというほど。 その時の俺は、最悪だった。自分だって国語の教師のくせして主語もクソもない言葉遣いだったなんて微塵も思いもせず、自分の主張こそが正しいと自信満々に胸を張っていたのだから。 だが、もっと最悪なのは大嫌いなそいつを何故か放っておけなかった自分自身だろう。 今、思えば全ての始まりはここからだった。 「そうじゃなくて!お前、名前なんて言うの。」 「あ、俺は油井です。」 「ゆい?随分と可愛らしい名前なんだな。」 「あ、いえ、下の方ではなくて苗字です。フルネームは油井 克巳です。」 紛らわしい言い方をするんじゃねーよ。自分の過ちを他人で上塗りした、またしても最低な俺の出来上がりだ。 「…油井、お前そのペコペコすんのやめろよ。」 「え、だって、自分が完璧に悪い、のに。」
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