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オレは父の会社を目指しながら、家であったことを思い出していた。
オレには最近ハマっているものがある。学校から帰ると、一直線で向かってしまうほどだ。
それは『ジグソーパズル』だ。
2000ピースの大きなパズルで、お城が描かれている。
一人で、毎日コツコツと少しずつ進めていた。パズルが段々と完成に近づいていくのを見るのが最近の楽しみだった。
……完成まであと少しだった。
「ただいまーー!」
「おかえりなさい!」
二階から母さんの返事が聞こえる。どうやら二階の寝室にいるようだ。
オレは家に帰ると子供部屋――オレと今年で小学二年生になる三歳下の弟が使う部屋に荷物を起きに行った。
荷物を置き、手を洗いに洗面所の方へ向かう。
(今日は宿題がない! 今日はのんびりとパパズルができる!)
手を荒いながら鼻歌を歌ってしまうほどに、オレは浮かれていた。
パズルは子供部屋ではなく、リビングの隅に置いてある机の上に置いている。2000ピースのパズルともなるとサイズが大きいので、子供部屋では広さが足りないからだ。
パズルをするときは、リビングの一角にマットを敷き、その上にパズルを広げて遊んでいる。
なので、手を洗ったオレが向かうはリビング!
ガチャッと、リビングの扉を開ける。
「うわっ!」
ドアを開けた途端、弟の驚いた声が聞こえてきた。
声が聞こえた方を見ると、パズルが置いてある机の前で弟が何かをしていた。
「おい! 何してるんだよ!」
オレは弟がパズルに何かイタズラをしているのかと思い、怒鳴った。
急いで、弟のところへ向かう。
「えっと……。ちょっとボクもパズルをやってみたくて……。」
弟は自分が悪いことをしていたと自覚しているのだろう、オドオドと怯えたような表情で、しどろもどろに何かを言っている。
「オレのパズルだぞ!勝手にさわんな!」
そう言うと、弟が少しむっとしたように口を尖らせた。
「少しくらいいいじゃん! ケチ!」
「いいからそこからどけよ!」
「少しくらいボクにやらせてくれてもいいじゃん!」
「いいからどけって! パズルにさわんな!」
言い争いがヒートアップしてきたとき、弟の肘がパズルの角に当たってしまった。
「「あっ! 」」
と思ったときには遅かった。
バラバラバラ。パズルが崩れる音が辺りに響く。崩れたパズルが無惨にも床に広がっている。
「おま……! おまえ!!」
オレは怒りで弟を怒鳴る。悲しくて、悲しくて、仕方がなかった。
毎日コツコツと進めていたパズルが。完成まであと少しだったのに。
涙で目がぼやけてくる。
「……っあ。ご、ごめ……」
弟も泣き出しそうな顔をしている。
「ふっざけんな!!」
それでも怒りが収まらず、今日一番の怒鳴り声が出た。
「うわぁ~~ん!」
ついに弟が泣き出した。
「ちょっと! 何してるの!?」
その時、二階に居たかあさんが慌ててリビングにやってきた。
先程からのあまりの騒がしさに慌ててやってきたのだろう。
「なんで二人とも泣いているの!? この床に散らばっているパズルはなに!?」
そこで、オレは自分が泣いていることに気づいた。
「……ぅ。コイツが勝手にオレのパズルをさわって、落としやがった!」
オレは嗚咽をこらえながら、弟に向かって指を差す。
「だって! だって! でも、わざとじゃないもん!」
そう言うと、弟はまた大きな声で泣き出した。
「ちょっと、落ち着いて! 偶然、パズルが落ちてしまったのね?」
そう言うと、母さんは弟を慰めだした。
「大丈夫よ。わざとじゃないのね? パズルは壊れた訳じゃないから大丈夫よ」
その言葉にオレはカチンときた。
「ふざけんな!! あそこまでいくのにどれだけ時間がかかったと思ってんだ!!」
弟の泣き声がまた大きくなる。
「そう怒鳴らないで! わかってるわよ。あんたがここ最近、一生懸命に進めていたことは」
母さんは眉を下げながらそう言う。
「でも、また元に戻せるでしょ? わざとじゃないんだから、そこまで怒らないの! お兄ちゃんでしょ?」
その言葉に、オレはどうしようもない怒りが込み上げてきた。
「なんだよ、それ……。じゃあ、わざとじゃないって言えば、弟はなにをしてもいいのか? 兄はどんなに悲しくても我慢しなきゃいけないのか?」
怒りと悲しみと呆れと失望と、いろんな感情が複雑に混ざり合って込み上げてきた。
何かを言おうとする母さんを無視して、オレは母さんを睨むと、叫んだ。
「ふざけんな! 何でオレが我慢しなきゃいけないんだ!!」
キッと弟を睨む。
「オマエもいつまで泣いてんだ! 泣きたいのはオレの方だ! 被害者面すんな!」
そう言うと、オレはドアに向かって走り出した。後ろで母さんが何かを言っているが、無視をした。
そして、そのまま玄関まで行き、家を飛び出した。
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