ジグソーパズル

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 家を飛び出したときのことを思い出すと、まだ胸がモヤモヤとする。  (父さんに話を聞いてもらえれば、このモヤモヤもなくなるのかな?)  オレは視線を上の方に向ける。父さんの会社は建物の陰になり、もう見えない。  本当にこっちの方向で合っているのか?  あと、どのくらい歩けば着く?  もし、先に父さんが帰ってしまっていたら……。  様々な不安が急に押し寄せてくる。辺りも曇り空のせいか、薄暗くなってきている。  ポタ。  その時、鼻先が濡れた。  ポタ……。ポタポタ。  雨だ! 顔を上に向ける。  ザーーッ。 「うわ!」  突然、勢いよく雨が降りだしてきて、驚いて変な声が出てしまった。  そんなことより、どうしよう!  傘は持っていないし、このままでは濡れ(ねずみ)になってしまう!  オレは急いで辺りを見回す。けれど、近くに雨宿りができそうな場所は見当たらない。  その間にも、体が雨でどんどん濡れていく。  そうしていると、もう雨などどうでもよくなってきた。  このままここに居てもどうしようもない。オレは父さんの会社を目指して、再び歩き始めた。  ザーーッ。ザーーッ。バラバラ。  雨が止む様子はない。  足は段々と早歩きになり、オレは走り出していた。  早く父さんに会いたい。  オレはなにをしているんだろう?  家を勝手に飛び出して、雨でずぶ濡れになって。 「ハア、ハア」  本当はわかってる。知っていた。  弟がパズルを気になっていたことを。一緒にやりたそうにこちらを見ていたことを。なにより、最近、オレと遊べなくて寂しそうにしていたことを。  オレは知っていた。わかっていた。  でも、誕生日プレゼントにもらったあのパズルを、オレは一人だけで楽しみたかった。  『はんぶんこ』でもない、『一緒に』でもない。オレだけのものだったから。 「ハア、ハァ」  ……嘘だ。父さんも母さんも、『パズルのピースが多いから手伝おうか?』っと聞いてくれたし、弟と二人で挑戦してみてはどうかと言っていた。  でも、オレはその言葉を無視した。意地になっていたんだと思う。 「ハァ……。ハァ……ッ」  あのときだって、本当は弟に向かってあんなに怒る必要はなかった。だって、一緒にパズルで遊べばよかったんだから。  落としてしまったときだって、あんなに怒らなければよかった。  母さんが言うように、またもう一度やり直せばいいのだから。  だけど、今までの努力をバカにされたような気がして、どうしても許せなかったのだ。  なにより、……オレは母さんに弟を叱って欲しかったのだと思う。  オレの味方になって欲しかったのだと思う。 「ハァハァ……」   オレは濡れる目元を拭うと、顔を上げた。 「やった、着いた……」  ついに父さんの会社にたどり着いた!  着いたはいいけど、どうしよう?  こんなずぶ濡れの姿で、会社の中に入るのは迷われる。それに、今は何時だ?  父さんはまだ居るだろうか?  ――そのとき、オレの名前を呼ぶ声が聞こえた。
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