1人が本棚に入れています
本棚に追加
家を飛び出したときのことを思い出すと、まだ胸がモヤモヤとする。
(父さんに話を聞いてもらえれば、このモヤモヤもなくなるのかな?)
オレは視線を上の方に向ける。父さんの会社は建物の陰になり、もう見えない。
本当にこっちの方向で合っているのか?
あと、どのくらい歩けば着く?
もし、先に父さんが帰ってしまっていたら……。
様々な不安が急に押し寄せてくる。辺りも曇り空のせいか、薄暗くなってきている。
ポタ。
その時、鼻先が濡れた。
ポタ……。ポタポタ。
雨だ! 顔を上に向ける。
ザーーッ。
「うわ!」
突然、勢いよく雨が降りだしてきて、驚いて変な声が出てしまった。
そんなことより、どうしよう!
傘は持っていないし、このままでは濡れ鼠になってしまう!
オレは急いで辺りを見回す。けれど、近くに雨宿りができそうな場所は見当たらない。
その間にも、体が雨でどんどん濡れていく。
そうしていると、もう雨などどうでもよくなってきた。
このままここに居てもどうしようもない。オレは父さんの会社を目指して、再び歩き始めた。
ザーーッ。ザーーッ。バラバラ。
雨が止む様子はない。
足は段々と早歩きになり、オレは走り出していた。
早く父さんに会いたい。
オレはなにをしているんだろう?
家を勝手に飛び出して、雨でずぶ濡れになって。
「ハア、ハア」
本当はわかってる。知っていた。
弟がパズルを気になっていたことを。一緒にやりたそうにこちらを見ていたことを。なにより、最近、オレと遊べなくて寂しそうにしていたことを。
オレは知っていた。わかっていた。
でも、誕生日プレゼントにもらったあのパズルを、オレは一人だけで楽しみたかった。
『はんぶんこ』でもない、『一緒に』でもない。オレだけのものだったから。
「ハア、ハァ」
……嘘だ。父さんも母さんも、『パズルのピースが多いから手伝おうか?』っと聞いてくれたし、弟と二人で挑戦してみてはどうかと言っていた。
でも、オレはその言葉を無視した。意地になっていたんだと思う。
「ハァ……。ハァ……ッ」
あのときだって、本当は弟に向かってあんなに怒る必要はなかった。だって、一緒にパズルで遊べばよかったんだから。
落としてしまったときだって、あんなに怒らなければよかった。
母さんが言うように、またもう一度やり直せばいいのだから。
だけど、今までの努力をバカにされたような気がして、どうしても許せなかったのだ。
なにより、……オレは母さんに弟を叱って欲しかったのだと思う。
オレの味方になって欲しかったのだと思う。
「ハァハァ……」
オレは濡れる目元を拭うと、顔を上げた。
「やった、着いた……」
ついに父さんの会社にたどり着いた!
着いたはいいけど、どうしよう?
こんなずぶ濡れの姿で、会社の中に入るのは迷われる。それに、今は何時だ?
父さんはまだ居るだろうか?
――そのとき、オレの名前を呼ぶ声が聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!