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「勇介!」
オレはハッとして、声が聞こえた方を向く。
父さんが焦った顔でこちらに走ってくる。
「勇介。こんなにずぶ濡れになって」
父さんのこんなに焦った顔を見たのは初めてかもしれない。
「とりあえず、父さんの車に行くぞ! 話は後だ!」
そう言われて初めて、オレは父さんに怒られるかもしれないと思った。
父さんは優しくて、今まで怒られた記憶はないが、今回ばかりは厳しく叱られるかもしれない。
「父さん……、ごめんなさい……」
オレは後悔が押し寄せてきて、涙ながらに謝った。
ちょうどそのとき、車にたどり着いた。
「……このタオルで体を拭きなさい。こんなにずぶ濡れになって、風邪をひいたらどうするんだい?」
父さんの声は思ったよりも優しい声だった。
「まず、車の中に入りなさい。話はそれからだ」
父さんはオレを車の中に入るように促す。
「でも、車が濡れちゃう……」
オレは父さんを見上げた。
「そんなことはいいから、早く入りなさい。座ったら体をできるだけ拭くんだぞ?」
父さんはオレを無理矢理、車の中に入れると車のドアを閉めた。
そして、自分は運転席に乗ると車のエンジンをつける。
「寒くないか? そこにあるタオルは何枚でも使っていいからな」
「急いで家に帰ろうな? 大丈夫だからな」
オレは父さんのその優しい言葉を聞いていると、涙をこらえることができなかった。
「うぇ~~ん。」
オレが泣いている間、父さんはなにも言わずに車を運転してくれた。
「……落ち着いたか?」
オレは涙でぼやける視界を拭いながら返事をした。
「うん……」
それから父さんは話を聞かせてくれた。
オレが家を飛び出した後、いつまで待ってもオレが戻らないことを心配をした母さんが、父さんに連絡をしたこと。
母さんと弟が、オレを探すために近所を探し回ってくれたこと。
オレのことが心配で、仕事が手に付かなかったこと。急いで家に帰ろうと会社を出ると、そこにオレの姿があり驚いたこと。
父さんの話を聞くたびに、みんなに心配をかけてしまったことが申し訳なく、また泣きそうになった。
「今度は勇介の話を聞かせてくれるか?」
父さんは優しい声で、どうしてオレが家を飛び出したのかを聞いてきた。
なので、オレは家に着くまでの間、ぽつりぽつりと父さんに今までのことを話した。
父さんは、「そうか」「頑張ったな」など、時々、相づちを打ちながら最後までオレの話を聞いてくれた。
そうして、父さんと話していると、あっという間に家に着いてしまった。
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