物語にはハッピーエンドを

1/1
前へ
/8ページ
次へ

物語にはハッピーエンドを

「それで? それで? その少年は家に帰った後どうなったの?」  勇太(ゆうた)は話の続きが気になるようで、ぐいぐいと俺の方へ寄ってくる。 「まあ、落ち着け!」  俺はそんな勇太に笑いながら、話を続ける。 「少年が家に帰ると、母親に怒られ泣かれ謝られ、弟に泣かれ謝られ抱きつかれ、大騒ぎだった」 「その日は少年が疲れていたこともあり、お風呂に入ってご飯を食べて、そのまま寝たそうだ」  俺は勇太を見つめながら話を続ける。 「次の日は休日だったこともあり、家族みんなでいろんなこと話し合ったそうだ」  勇太は心配そうな顔をして聞いてきた。 「じゃあ、少年はみんなと仲直りできたの?」 「ああ! もちろん!」  そう言うと、勇太は安心したようにニッコリと笑った。 「よかった~~」  そんな勇太を微笑ましく思いながら、俺は少年の冒険を終わらせる。 「少年が飛び出すきっかけになったパズルも、今度は家族みんなで協力して完成を目指したそうです」 「きっと、その時間はなによりも楽しい時間になったことでしょう。おしまい」  俺はそう物語を締めくくる。  パチパチパチと拍手の音が聞こえる。勇太が楽しそうに拍手をしているのだ。 「でも、そっか。その少年は弟と母親を許したんだね……」  そう言う勇太は、納得がいっていないような、安心したような複雑な表情をしていた。  「うん! 僕、ちょっとお母さん達のところへ行ってくる!」  そう、なにかを決意したように言うと、勇太は俺の返事も聞かずに部屋を飛び出した。  一階にいる母親と弟のもとへ向かったのだろう。  勇太が居なくなった部屋で、俺は壁に飾られた、お城が描かれた大きなパズルを見つめた。 「俺も父さんのように、上手く息子を導けることができたかな?」  下から俺の大事な家族が、俺のことを呼んでいる声が聞こえる。  さあ、家族のもとへ行こう!
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加