六畳一間の無法地帯

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 ある人は言った。「今の憲法では正当防衛は急迫性があったり、防衛の意思が必要だったりと、認められるための条件を満たすには相手から直接的に攻撃されることが必須である。つまり、陰口やSNS上での騒動、ストーカー行為といった精神を攻撃してくるものに対して認められないのだ。精神攻撃に対する正当防衛も認めるべきだ。でなければ精神攻撃がし放題になってしまう。」 ある人は言った。「あなたの主張はよく分かりません。誹謗中傷や名誉毀損については既に罰する条文は既に制定されています。精神攻撃はされ放題ということはありませんよ。カウンセリング施設も全国各地に存在しますし、悩んでいるのなら相談してみては?」 ある人は言った。「お前は全くもって理解できていない精神攻撃というものを。まず、精神攻撃で追い詰められた人間が誰かに助けを求めることができる前提なのがおかしいだろう。子供の頃親に頼ったか?友達に悪口言われるんだって親に頼ったか?思春期なんか恥ずかしくてそんなこと出来るわけない。ストーカー被害にあった時警察に頼ってどうにかなるか?ただ“後をつけられてる気がする“だけでは警察は犯人を見つけてくれないぞ。それこそ相談には乗ってくれるかもしれないが毎日家から出て帰ってくれるまで付きっきりで見張ってもらえるわけでもない。ストーカー被害なんて日を追えば追うごとに精神が削られる。何かあってからでは遅いんだ。でも、そんな彼らに正当防衛は認められてない。これはおかしいだろう。」 ある人は言った。「確かに精神攻撃によってまともな判断が出来なくなる可能性はあるし、物理的な攻撃が飛んでくる危険性があるのに防衛手段がないのは確かに問題かもしれませんね。あなたの主張は一理あるのかもしれない。しかし、それをどう解決したいというのですか?精神攻撃に正当防衛を認めるとは具体的にどのような行為を許すことになるのですか?」 ある人は言った。「そんなの簡単さ。加害者を排除する行為だ。精神的な防衛ってのは形だけの“もう会えないようにする“じゃない。“もう思考の中から消えるようにする“だ。いくら裁判で2度と会えないような判決が出されたとしても、思考の中に一度つけられた傷は残り続ける。何かの拍子にフラッシュバックして思い出したり、トラウマになって前と同じような生活が出来なくなったりすることが考えられる。そのため、精神攻撃の正当防衛とはそいつらを思考の中から一切合切排除することだ。」 ある人は言った。「全く具体的じゃないですね。一度記憶してしまったことを完全に忘れるなんて不可能です。それじゃあ憲法は変わらないでしょう。」 ある人は言った。「いいや、そんなことはない。コイツだ。」 ある人はそう言ってジップロックに入った白い粉を取り出した。 「コイツは嫌なことを全部忘れさせてくれる。コイツがあればどんな精神攻撃をも無効化してしまう。嫌な奴の顔なんて思考に入り込んでこない。全てが楽しくなるのさ。最高だろ?」 ある人は言った。「つまりあなたは精神攻撃を受けた人間には正当防衛の手段として違法薬物の接種を許可しろ、と言いたいのですか?」 ある人は言った。「その通りさ。その場合もう、“違法“ではないんだがな。そうだ、今度お前も向こうの世界にイッてみないか?楽しいぞ?」 ガハハッ とある人は笑いながらジップロックを開封して粉を吸い込んだ。
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