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ついに、私の長い闘病生活は終わった。長い間、この箱庭でずっと生活し続けてきた。
真っ白で清潔感のある私の部屋だった場所。そこにはもう何も置かれていない。窓が開けられていてクリーム色のカーテンが風になでられている。
空は綺麗な真っ青で雲一つなく綺麗で、それが私の心を陰鬱とさせた。
ガラガラっと後ろから開く扉の音とともに現れたのは、私の幼馴染だった。
「夕日ちゃん!退院おめでとう!」と言いながらこちらへと進んでくる。
「なんで私の場所が分かったの…?」と、声が漏れる。どこに居ても私の居場所が分かる幼馴染はもはやストーカー並みだ。そして、私のつぶやきはスルーされたのか、別の話を始めた。
どうやら、退院祝いに向日葵を見に行こうという話らしい。私は、そんな強引な彼に連れられて向日葵畑へと足を運んだ。
向日葵畑は丁度病院から20分くらい歩いたところにある。近いのか遠いのか微妙な距離だ。
「向日葵楽しみだね。何だか少し前の時みたいだ。」
彼が話しているのは、入院中に抜け出した時の話だ。
「おぼえてる?少しだけ元気になったから外に出たいって暴れてさー、看護師さん困らせてたやつ。結局抜け出して一緒に怒られたよねー。」
さらっと私の黒歴史をいいながら前を歩く彼。
「変な言い方しないでよ。別に暴れたわけじゃないし。それに、抜け出そうって言い始めたのは、…」
「俺だったよね?言い始めたの。だってさ、あんな悲しそうな顔してたら仕方ないじゃないか。抜け出してでも行こうって思っちゃうよ。」
そうだ、言い出したのは彼だ。私が外に出れなくてふてくされて泣いていたのを見てそう言葉をかけてくれたの。なんだかんだ、私の事一番わかっているのは幼馴染な気がする。
私はずっと大きくなった幼馴染の背中を見る。入院通いだった私はずっと前に成長が止まっているというのに、幼馴染は今年に入ってからまた一段と背が伸びた気がする。男の子ってずるいよね、女子より成長し続けて…。
「やっとひまわり畑に着いたよ!」
私が思い出に浸かっている間に20分歩いたみたいだ。
「綺麗…」
向日葵は太陽を見上げて、露が反射してより輝いて見えた。昨日雨が降っていたからその雫がまだ残っていたんだろう。
「写真撮ってあげる。向日葵の前に立ってよ。」
私は彼の言われた通りに向日葵の前に立って麦わら帽子のつばを少し手で触ってポーズをとる。
カシャッという音がした後、彼は画面に目を向ける。
「とっても綺麗だね。」
彼はそう一言だけ言った。
「何それ?それ以外に感想はないの?せっかく、久しぶり外に出れたのに、」
少し不満。折角ポーズをとったていうのにその一言でかたずけられるなんて…。なのに、幼馴染は何も言わない。もっと文句言ってやる。
「綺麗だからさ、姿を見せてよ。」
彼は目から大粒の涙を流し始めた。
「きっと、君のことだから僕の近くにいるんだろ?」
その通り、ずっとそばにいたよ。だって見てられないんだもん。
「それとも、あのことをまだ怒っているの?」
もう怒ってないよ。そんなことで本当に怒るわけないじゃん。
「謝るから。だから、もう一度会いたいよ。」
謝らなくていいよ。私だって、会いたいし、気づいてほしいよ。
そっと彼の頬を触ろうとした。だけど、私の手は通り過ぎるだけで涙をぬぐうことが出来ない。
私が死んでからずっとこうだ。毎日のようにあの病室に来て、向日葵畑に行って写真を撮る。あの時の事の繰り返し。そんなことしたって、私に合えるわけないのに…。
でも、それに毎日付き合っている私も私。彼に気づいてほしくて、また私の眼を見て笑ってほしくて彼の言葉に合わせて会話もどきをしている。
「大好きだよ。あったときから、一目ぼれだったんだよ。夕日ちゃん、向日葵みたいに笑うから。」
「私も小さい頃から好きだったよ。だって、小さい頃から入院通いだった私のことを一番に気にかけてくれて、ずっと私のために通ってくれてたんだもの。好きにならないわけないじゃん。」
だから、どうか…どうか気づいて。
私の言葉は彼に届いていないのか、それを言ったきり、崩れ落ちてしまった。そっと、方に寄り添う。
気づいて、私不幸じゃなかったよ。幸せだった。君と一緒に居れて幸せだったの。だから、気づいて。
そっと、向日葵が私たちのことを見守ってくれていた。あの時通ったときからずっと。少しだけ枯れ始めてしまっている向日葵はあと何日もつのだろう。しかし、向日葵がなくなってしまったとき、記憶がなくなってしまうような気がして、私は少しだけでも長く咲いていてほしいと願った。
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