タローとジローの終末クッキング

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 そうだ、買い出しへ行こう。  一度でいいから、そう気軽に言ってみたいものだ。  なにしろ外はマイナス四十度。十分な装備がないと、玄関から一歩出た途端に全て凍りついてしまう。 「タローさん、準備はいい?」  イヤホン型の通信機から凛としたジローさんの声が聞こえる。おれと違って緊張している様子はない。  ガスマスクの内側が白く曇らぬようそっと深呼吸し、「いいよ」と短く答える。 「じゃあ、いくよ。レディー……GO!」  その言葉を合図に、おれは真っ直ぐに駆け出した。目標は管理AI一体。油断しなければ楽な仕事のはずだ。 「$%&O&80p79P80@!」  AIはおれの足音を感知すると、人間には理解できない機械語を喚き散らしながら、三本指の先端を赤く光らせた。縄張りを荒らす不届きものを撃退するための熱線だ。  その射程距離に入るか入らないかというところで、窓の外で大音響が轟き、そちらに気を取られたAIがおれからモニターを離す。  その隙に懐に飛び込み、ガラ空きのボディに電子銃を叩き込むと、まるで宇宙映画に出てくるようなつるんとした筐体から青白い光がスパークし、辺りに焦げ臭い煙が漂った。  どうやら作戦は上手くいったようだ。モニターから光が失せたのを確認して、おれはAIから銃を離した。衝撃で腕が痛い。威力は絶大だが、いかんせん射程距離が短いのが難点である。  ともあれ、完全に沈黙したAIは床にくずおれ、まるで終わりかけの線香花火のように、ぱちぱちと火花を散らしている。
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