タローとジローの終末クッキング

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「お疲れ、タローさん」   安堵の息をつくおれの元へ、音響弾を投げた張本人がニコニコと歩み寄ってきた。おれの相棒で可憐な女丈夫、ジローさんだ。  ジローさんは床に転がるAIを痛ましげに見下ろした後、その背後に伸びる地下への階段に目を向けた。 「あれかな?」 「多分そう。他になさそうだし。きっと、入り口を一つにすることで、管理しやすくしたんだろうな」 「老舗の百貨店だもんね。そのあたりキッチリしてそう」  正確には百貨店だったと言うべきだろうか。  人類が滅んでからゆうに四百年以上が経過した今では、その面影は無いに等しい。こうしている間も外ではブリザードが吹き荒れ、世界中どこも、ペンギンの居ない南極大陸といった感じだ。  どうしてこうなったって? それはおれもよく知らない。  記録によると、二十二世紀の終わりに世界規模の核戦争が勃発し、多量の煤が空に撒き上げられた結果、いつ終わるとも知れない氷河期に突入。地球上の動植物は大半が死滅した……らしい。  多分おれとジローさんは数少ない生き残り組だと思うのだが、何しろ最近まで冷凍睡眠装置ですやすやと眠りこけていたので、記憶が曖昧なのだ。  眠りにつく前の自分がどんなやつで、何をしていたのか、全くもって思い出せない。それは、同じ施設の中で彷徨っていたジローさんも似たようなものだろう。  ここも百貨店としての機能を停止した後は、しばらくシェルターとして活躍していたはずだ。在りし日に買い物客で賑わっていた店内も、今ではおれとジローさんの二人きりである。 「さあ、行こう。足を踏み外さないよう、ゆっくりね」 「うん。タローさんも気をつけてね」  腰に下げていたカンテラを右手に持ち、薄暗い階段を慎重に下りる。外で吹き荒れるブリザードの音が響く以外は、嫌になるほど静かだ。コツコツと鳴るおれたちの靴音が、どうしようもなく不安を駆り立てていく。  ここまできて、目的のものがなかったらどうしよう?  しかし、その心配はすぐに杞憂となった。どん詰まりにひっそりと設置されていた重厚な扉の向こうには、一面のジャガイモ畑が広がっていた。
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