タローとジローの終末クッキング

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「ジローさん、下がって!」  咄嗟に銃に手をかけ、振り返る。そこにいたのは、地上にいたやつと同タイプの管理AIだった。  モニターに映る緑色の光が無機質に点滅している。どうやら向こうに攻撃する意思はないようだ。正常な個体だったことに、おれたちは胸を撫で下ろした。  管理AIは二十二世紀に開発されたインフラ整備のためのロボットで、この百貨店のようにシェルター機能を備えている施設内に限られるが、人類が滅んだ今も一定の環境を維持してくれている。  だが、中には先ほど倒したAIのように、人類を判別できなくなったバグり個体も存在する。そういうやつはこちらを感知した途端に、無闇矢鱈に熱線を放って来るので、物理で黙らせるしか方法がない。  おれが仕留めたあいつは、余程ジャガイモ畑が心配だったのか、壊れる瞬間、近隣にいた同タイプの個体を引き寄せたらしい。 「……友達だったのかな」 「どうだろうな」  AIに感情というものがあるのかはわからない。ガスマスクを被り直し、来た道を慎重に戻る。  背中に担いだ保存容器がずっしりと重い。ふうふうと息をつきながら階段を上り切ると、床に転がった個体は早々に凍りついていた。 「……なんか、このままにしておくのもアレだよね」 「うん、まあ……」  ジローさんとしばし顔を見合わせた後、壊れたAIに手近にあった布を被せ、そっと手を合わせる。殺されかけたとはいえ、これまでインフラを保ってくれた功労者だ。粗末にしてはバチが当たる。  とっくにこの星を見捨てただろう神に祈りを捧げた後、両手を解くと、いつの間にか俺たちの後ろをついてきていたAIが、物言わぬ仲間をじっと見つめていた。 「……きっと、これからはあの子がここを守っていってくれるよ」 「……そうだといいな」  どことなくしんみりした気持ちを胸に雪上車に乗り込み、おれたちは帰路に着いた。
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