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散歩好きな友人
慣れというのは恐ろしいものだ。浪川 司朗は陰キャと呼ばれやすいタイプで、間違っても冒険とか、活動的なんて言われたことはない。ないのだが……友人が関わるとそんなことを言ってはいられない。小学校3年生の時に転校してきてから12年、振り回されに振り回された。大学でアイディア実現サークルに所属したのも、役に立つものを作って身を守りたいが為。無類の散歩好きな小野崎 彬が散歩に誘いに来るのは平均5日おき。
廊下を走る音が近付いてきて、気難しい教授が咎める声がする。同じサークルに属するメンバー達がちらちらとドアの外を窺う。
「シロー! 散歩に行こうぜ!」
ヘルメットを被ればサバゲーの格好といえる姿が勢いよくサークルの部屋のドアを開け放って叫んだ。司朗は慣れたものでちらりと視線を送り手元の作業を続ける。
「試作品できたらね」
「えぇ~、それいつ? 今必要?」
「お前が黙ればあと10分。必要」
物言いたげに黙る彬の肩を叩いてなぐさめる周囲の動きを感じながら司朗は手元に意識を戻す。今回は手のひら大の四角いスライムのようなものと一見白い毛糸玉のような球体だ。スライムの方は叩きつけると成人男性を受け止められる大きさに膨張する。糸の方は蜘蛛の糸の強化版アイテム。どちらもどの程度使えるか検証が必要で、散歩なら好都合だ。
「よし……」
白衣を着たまま司朗は彬に向き直った。彬がうれしそうに顔を輝かす。犬が全開で尻尾を振っているような様子に僅かに笑みが浮かんだ。この白衣も特別仕様。内側にポケットを5つ付け、ちょっとしたアイテムを装備、全体には防刃防火効果を付与した試作品だ。
「浪川さん、なんで白衣着たまま?」
「いつ何時も研究をしたいからだ」
「そう、すっか……」
変な人だと思われているのは承知の上。心内で叫ぶ。備えあれば憂いはないんだぞ!? 備えが充実するなら変人と多少見られるくらいなんでもない。
「さあ、行こうじゃないか、散歩に」
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