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散歩という名のファンタジー
「今日は赤いものを見つけたら方向を変えていこうと思うんだ」
「そうか」
サバゲーのような装備の人間と白衣の男。すれ違う人の視線を気にする時期はとうに過ぎた。ウキウキと語る彬に冷静に頷きながら歩を進める。ポスト、信号、他人の服、車、屋根の色など見つけるたびに方向を変える。そのうちどこを歩いているかがわからなくなる。
「赤い花だ、次どっちがいいかな」
「……気が向く方で」
無感情にうながした。どっちでも変わらないな。右にも左にも怪しい霧がある。どちらにしようかな~と歌い、彬は左を選んだ。むわっと蒸し暑さを伴う霧に踏み込んで数歩。アスファルトではない感触。草原だ。一応言っておくがこの近所付近に公園以外の草原はない。ましてや完全なる黄緑色の草など。
「わー、明るい色の草だー」
声をあげる彬の後ろで司朗は草を1本採取する。ビニール袋に入れて内ポケットへ。ぼんやりと霧で視界が遮られているのに明るい空間。一面黄緑の草。少し先に丘がある。丘の向こうは眩しい光があるようだ。
好奇心いっぱいに駆けだそうとする彬の背にさり気なく蜘蛛の糸を1本くっつけた。ざかざかと音を立てて丘を駆け上がる彬の後をマイペースに付いて行く。眩しい光対策に内ポケットからサングラスを出して装着してからてっぺんで止まった彬の隣に並ぶ。
「砂漠?」
「少し緑がかっている?」
眩しそうに手で影を作っていた彬は見たままの情報を呟く。サングラスをしていても刺すように強い光。しゃがんだ彬が砂に触って「おお」と声をあげた。
「すっごく軽い!」
さらさらと落とせば僅かな風に舞う。司朗もしゃがんで砂に触れる。砂というより……思案して司朗は内ポケットからさっき採取した草を取り出して光にかざした。劇的な変化が起きる。光にさらされた草は一瞬で枯れ、ボロボロに崩れて粉になった。
「これは砂ではない。さっきの草が枯れたものだ」
「えぇ!?」
「これは極端に光に弱い種なんだろう」
「霧の中から出たら枯れちゃうってこと?」
「おそらく」
「色んな植物があるんだな」
おそらく人間界じゃないと思うがな。司朗は心の中で何度目かわからない突っ込みをする。小野崎 彬は散歩に行くと必ずあり得ない場所を通過する。彼曰く幼い頃からそれが普通だったので異常という認識はない。もちろん、司朗にとっては初回からありえないことではあったが。
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