散歩という名のファンタジー

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 「で、まっすぐ行くのか?」  「……いいの?」  年齢を重ねていくうちに気遣いというものを覚え始めた彬はたびたび心細そうな顔をする。散歩に誘った時点で今更だ。司朗は無言で内ポケットから折りたたんだ布を取り出してひとつを彬に放り投げた。  きょとんと(うかが)う視線を向けられながらバサッと振って布を広げる。霧色の布は紫外線や強い熱線を遮るもの。太陽が危険な一部の人ならず、一般の人も気軽に使える日よけグッズとしても売り出せるように研究しているもののひとつ。羽織(はお)れば攻撃的な刺激が(やわ)らいだ。  「備えはある」  「シロー……」  目を潤ませながら笑顔を弾けさせた彬もいそいそと布を羽織る。そして、顔をほころばせた。頭から被って楽しそうだ。お揃いのてるてる坊主になるのは気が乗らないが司朗も頭から被ると後を追う。柔らかな布に足を突っ込んだような感触と見た目の砂漠が一致しない。慎重に足を運ぶ。時折ぼさっと何かが落ちる音が聴こえだした。  「木の実?」  「鳥か?」  「シロー、シロー、あれ、すごい」  指さす方を見て無言になる。上空から落ちて来る木の実か、種のようなものが勢いよく砂モドキに埋まって数秒で発芽してニョキニョキと成長を始めている。ものの5分ほどで赤い実を実らせた木が数を増やしていった。  「赤だぞ」  今日は赤いもので道を変える日だ。冷静に指摘した司朗は嫌な予感を押し隠す。だてに12年間、彬との散歩を経験していないのだ。木の実→捕食動物→危険可能性大。これくらいは簡単に予想できる。日が(かげ)った。  「じゃあ、今度は右……でっかい(わし)!?」  「さっさと走れ!」  今のところは木の実へと急降下をしている巨大な猛禽類(もうきんるい)が100%草食系とは言えない。ふかふかと軽い地面を蹴って可能な限り早く移動する。先に進んでいた彬が唐突に姿を消した。崖だ。  とっさに四角いスライムモドキを下に投げ、蜘蛛の毛糸玉を適当にぶん投げる。彬に背に付けておいた蜘蛛の糸と繋がっている毛糸玉が崖の壁にバウンドするたびに糸を伸ばし、網を増やして勢いを緩めていく。司朗は途中の蜘蛛の網に引っかかった。
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